ハロウィンにぴったり!?怖い魔女が出てくるグリム童話のお話10選

今回は、ハロウィンの季節にぴったりの、魔女が出てくるグリム童話をピックアップしてご紹介しよう。
もちろんハロウィンらしく、「怖い魔女」に限定している。
有名どころはもちろんのこと、きっとあなたが知らない怖い魔女のお話もあるはずだ。
ぜひとも、気になる魔女のお話をチェックしてみてほしい。
目次
1.『ヘンゼルとグレーテル』の人食いばあさん魔女
まずはなんといってもKHM015『ヘンゼルとグレーテル』だろう。
グリム童話の中でも群を抜いて有名な作品であり、「魔女」と言ったら『ヘンゼルとグレーテル』を思い浮かべる人も少なくないはずだ。
『ヘンゼルとグレーテル』の魔女は、森に迷い込んだ幼いヘンゼルとグレーテルを食べようとする、いわゆる「人食い」の魔女である。
ハロウィンの雰囲気にもぴったりな、怖い魔女だ。
見た目はかなり年をとった老婆で、杖をついて歩いている。
かの有名なおかしの家(本当はパンの家)を作り、森に入った子どもをおびき寄せている悪い魔女である。
ところがおばあさんは、じつは、そのように親切なふりをしただけで、ほんとうは悪い魔女だったのです。
子どもたちを待ち伏ぶせていたのでした。
パンの家を建てたのも、2人をおびきよせるためにしたことでした。
おばあさんは、子どもが手に入ると、殺して料理して食べてしまうのです。
家というエサにかじりついた子どもたちを、食べてしまうのだ。
そして、『ヘンゼルとグレーテル』の魔女の描写は、なかなかにリアルで怖いものになっている。
魔女というのは、赤い目をしており、遠くは見えませんが、そのかわり、けだもののように、鼻がよくきくので、人間が近づくとわかるのです。
赤い目で、鼻がよくきくとのこと。
なかなかに強そうだ。
『ヘンゼルとグレーテル』の物語では、魔女は兄ヘンゼルをぶくぶくと太らせて食べようとする。
妹グレーテルは召使い代わりにして、働かせている。
こんな恐ろしい魔女のはずだが、最期は子どもにやられてしまう。
かまどの火をグレーテルにチェックさせようとするものの、グレーテルが「どうやって中に入るかわかりませーん」と言うので、自分からかまどの中に頭を入れてしまう。
その瞬間、グレーテルに後ろから押されて、かまどの中へ閉じ込められ、丸焼け状態に。
グレーテルが賢いのか、魔女が油断しすぎたのか、とにかく恐ろしいイメージの魔女にしては、あっけない最期だ。
2.『白雪姫』の嫉妬するまま母魔女
次はKHM053『白雪姫』を見てみよう。
白雪姫のまま母、つまりお妃が魔女であるというのも、有名な話だ。
(ちなみに、初版では白雪姫の本当の母親である)
まま母魔女は、白雪姫をやっつけようと、あらゆる画策を試みる。
それは、魔女の「鏡」が、白雪姫のほうが美しいと答えるから。
自分より美しいものを排除したいと願う妬みにまみれた魔女である。
「鏡よ、壁の鏡よ、国中じゅうで一番美しいのはだれ?」
すると鏡がこたえました。
「お妃さま、ここではあなたが一番美しい。
でも白雪姫は、あなたの千倍も美しい」
これを聞いて、お妃はとてもおどろきました。
そして、ねたましさのあまり、顔色が黄色くなったり、青くなったりしました。
それ以来、白雪姫を見るたびに、お妃のはらわたが煮えくりあえり、姫がにくくてなりません。
お妃の心の中で、ねたましさと思いあがりが、雑草のようにだんだんとのびひろがり、ついには昼も夜も心の鎮まるときがありませんでした。
こうして、魔女は白雪姫排除計画に乗り出すことになる。
まずは、森の中で白雪姫を殺し、肺と肝臓を持ち帰るよう狩人に命令。
だが、これは狩人が白雪姫をかわいそうに思ったため、失敗に終わる。
狩人は代わりに動物の内臓を持ち帰り、まま母魔女はまんまとだまされるわけだが、「鏡よ鏡」の鏡がまだ白雪姫は生きていると告げる。
怒った魔女は、物売りに変装して、森のこびとの家に逃げ込んでいた白雪姫を訪ねていく。
最初はひもで絞めようとし、次は毒の櫛(くし)を浴びせようとし、そして最終的に毒リンゴで白雪姫を狙う。
嫉妬に狂った、女の執念的な魔女である。
最期は、カミナリで撃たれるディズニー映画とは違い、熱々の鉄の靴をはかされ、踊り狂ってご臨終。
自然の力ではなく、人間の手によって息の根を止められる。
けっこう拷問的な最期である。
白雪姫のハロウィンコスプレはけっこう流行っていると思うが、たまには王妃の魔女を演じてみるのもいかがだろうか。
パーティの終わりに激しいダンスをすれば、一目置かれること間違いなしだ。
(ただし、原作のわかる人に限る…)
3. 『めっけ鳥』の子どもを煮る魔女
実は『ヘンゼルとグレーテル』以外にも、子どもを食べようとする魔女が登場する。
それが、KHM051『めっけ鳥』に出てくる魔女である。
この魔女は、料理担当の女として、主人に仕えている召使い的な存在だ。
やはり「老婆」として登場するが、物語の最後に「魔女」だということがわかる。
この老婆は、主人が森で見つけてきた「めっけ鳥」という小さな女の子を、なぜか突然、「煮て食べる」と言い出す。
そのために、せっせと水を運んでいる働き者(?)だ。
森林官の家には1人の年とった料理女がいて、ある晩、桶を2つもつと、水を運びはじめ、一度ではなく、何度も何度も井戸へ足を運びました。
一応、魔女ではあるのだが、決してここで魔法は使ったりしない。
いざというとき以外は、こうしてせっせと肉体労働をするのだろう。
そして、森林官である主人の子どもが、この行動に疑問を抱き、なぜ水を運んでいるのか聞いてしまう。
そこで、魔女はペラペラと計画をしゃべってしまうのだ。
…料理女は「明日の朝、森林官さまが狩りに出かけたら、水をわかし、その深なべがぐらぐら煮えたら、みつけ鳥(めっけ鳥)を投げこんで、煮こんでやるのさ」と言いました。
当然、それを聞いた主人の子どもは焦る。
そして、仲良くなった友達の「めっけ鳥」を連れて、森へと逃げ出すわけだ。
魔女である老婆は男3人を捜索部隊として送り出すのだが、役立たずだったため、自分で捜索にくり出すことになる。
やはりエネルギッシュな働き者の魔女ばあさんだ。
だが、子どもたちのほうが一枚上手で、めっけ鳥は「池の水」になり、主人の子どもは「カモ」に変身する(なぜか変身能力を持っている)。
そして、池の水を見た魔女は、喉が渇いていたのか、その水をせっせと飲み始める。
そこに変身したカモがやってきて、魔女を水の中に引きずりこんでしまう。
…カモがすばやく泳いでくると、くちばしで料理女の頭をつかんで、水の中へひきずりこみました。
こうしてこの老いた魔女の料理女はおぼれ死にしなければなりませんでした。
結局、子どもを煮て食べることはなく、池に沈んで終了。
『ヘンゼルとグレーテル』と同様、やはり子ども2人にやられてしまうお婆さん魔女である。
4. 『ヨリンデとヨリンゲル』のお城で誘拐する魔女
KHM069『ヨリンデとヨリンゲル』に登場する魔女は、森の中に「城」を陣取っている。
ノイシュバンシュタイン城のような、森の中の古城だろうか。
いかにも、壮大なファンタジーなんかで出てきそうな魔女のイメージである。
この魔女は、昼は猫やフクロウに変身し、夜におばあさんの姿に変わる。
やはり、人間モードのときは「おばあさん」らしい。
城での猫やフクロウの姿は、いかにもハロウィンに似合いそうだ。
が、ただ変身して一日過ごしているだけならいいものの、やっかいなことにこの魔女、城に近づく女の子を監禁する誘拐犯なのだ。
自分の城に近づいた女の子は、鳥に変身させてしまい、そのまま鳥かごに入れてしまうのである。
その城に100歩のところまで近づく人がいると、その場で金しばりにあい、この老婆が自由にしてくれるまでは、その場を動くことはかないませんでした。
けがれのない若い娘が同じようにこの近辺に近づくと、老婆は娘を小鳥に変えてしまい、かごに閉じこめ、城にもちかえり、1つの部屋に置いていました。
老婆はもう城に7千ほどもそういうめずらしい小鳥の入ったかごをもっていました。
……かなりの人数をコレクションしているようだ。
物語では、ヨリンデとヨリンゲルというカップルがいて、彼女のヨリンデが鳥に変えられて連れていかれてしまう。
そのとき、彼氏ヨリンゲルは身動きが取れなくなる。
自分も変身できるし、相手も変身させたり、動きを封じてしまうなど、この魔女なかなかの能力者だ。
しかし、彼氏ヨリンゲルが夢のお告げに従い、花を持って城に乗り込んだ際には、魔女の魔法はきかなくなってしまう。
最終的にはその花のせいで魔法が解かれてしまい、魔女も魔法が使えなくなって、監禁されていた全員が解放されることとなる。
ヨリンデとヨリンゲルも幸せに暮らしてハッピーエンドだ。
それにしても、強い魔法も使えて、変身もできて、グリム童話の中でもかなり魔女っぽい魔女なのではないだろうか。
ちなみにこの魔女、ふだんは城に近づく鳥やけものを食べているとのこと。
肉食派である。
5. 『恋人ローランド』の首を切り落とす魔女
『めっけ鳥』と若干似ている部分もあるが、KHM056『恋人ローランド』に登場する魔女もかなりあくどい。
この魔女はふつうの家に住んでいて、実の娘と、血のつながらない「まま娘」の2人と暮らしている。
どういう経緯でそうなったかは謎だが(魔女にも離婚とか再婚とかあるのだろうか…)、とにかくこの魔女、いじわるな実の娘を可愛がり、心のきれいなまま娘を邪険にしていた。
なので、ある日まま娘の命を奪ってしまう計画を企てる。
その計画とは、オノでまま娘の首を切り落とすこと。
いたって普通にただの犯罪だ。
とくに魔女らしいパワーを使うわけではない。
ところが、なんということか、間違って自分の娘の首を切り落とす失態を犯してしまう。
本当に魔女なのだろうか。
しかしこれは、狙われていたまま娘のほうが先に気づいてしまい、うまく回避したせいでもある。
……妹が眠ってしまうと、まま娘はそっと妹を前のほうに押しだし、自分は壁ぎわに場所を移しました。
夜中になって、母親がしのびこんできました。
このばあさんは右手にオノをもち、左手で手探りして、前に寝ている者がいるかをたしかめました。
そして、両手でオノをつかんで何度もふりおろし、自分のほんとうの子どもの首を切り落としてしまいました。
いやはや、魔女の恐ろしさが垣間見えるなんともエグい描写である。
(妹を前に押しだすまま娘も少し怖い気がするが…)
そして、難を逃れたまま娘のほうは、恋人のローランドの助言に従って、魔女が持っている魔法の杖を手に入れる。
魔法の杖なるアイテムはちゃんとあるらしい。
魔女がこの杖を使う場面は一切なく、代わりにまま娘が使って、魔女を退治することになる。
家から逃げて、魔女 vs まま娘&恋人ローランドの追いかけっこになるのだが、魔法の杖で娘は花に変身し、恋人ローランドはバイオリン弾きに変わる。
魔女はこの花がまま娘であることに気づいていて、まま娘を仕留めるためにそれを折ろうとする。
しかし、ここでバイオリン弾き(恋人ローランド)がバイオリンを弾くと、魔女は踊らずにはいられなくなってしまう。
魔女は、急いでイバラの茂みにはってはいり、花を折ろうとしました。
魔女はその花がだれであるのか、知っていたのです。
そこで、楽士(バイオリン弾き)が弾きはじめました。
弾くやいなや、魔女はおどらずにはいられませんでした。
それは、魔法のおどりの曲だったのです。
楽士がはやく弾けば弾くほど、魔女は激しくとびはねなくてはなりませんでした。
イバラが魔女のからだから着物をひき裂き、魔女をつき刺し、傷つけ血だらけにしました。
楽士は弾くのをやめなかったので、魔女はおどりつづけなくてはならず、とうとうたおれて死んでしまいました。
自分が持っていた魔法の杖の魔法のせいで、イバラの茂みで踊らされる羽目になる。
そのまま踊り続けて、倒れて亡くなるという悲しい(?)オチである。
イバラが巻きつく描写は、想像するとなかなか残酷だ。
と、最後まで魔女らしい活躍はまったくないが、このいじわる魔女も、首を切り落とそうとする悪い魔女であることは、間違いない。
6. 『兄と妹』の泉に呪いをかける魔女
KHM11『兄と妹』にも、まま母の魔女が登場する。
やはりグリム童話の中では、まま母は子どもをいじめる役割を担っているようだ。
ということで、このまま母魔女もなかなかにやっかいな存在だ。
あるとき、兄と妹はまま母に嫌気がさして、家を逃げ出すわけだが、その後ろを魔女はこっそりとついていく。
兄と妹は森の中に逃げこむが、魔女はこの森の中にあるすべての泉に魔法(呪い)をかけてしまう。
ところで、腹黒いまま母は魔女だったので、2人の子どもが逃げだしたのをちゃんと見ていました。
そして、魔女たちがやるように、しのび足で、こっそりあとをつけ、森の中の泉に、全部呪いをかけてしまいました。
そして、その泉の水を飲んだ兄は、子ジカに変身させられてしまうのだ。
『恋人ローランド』のまま母魔女とは違って、こちらはきちんと(?)魔法を使って子どもたちをいじめようとする。
しっかり魔女の能力は使っているわけである。
魔法を使ってはいるものの、ただ変身させるだけで終わるのだから、首を切り落とそうとする『恋人ローランド』のまま母魔女よりは、いくぶん穏便な魔女なのかもしれない。
しかし、やはり悪い魔女であることには違いない、今回の魔女。
最期は火の中に投げ込まれて、命尽きてしまう。
ついでに、まま母の娘までもが登場して、罰をくらう。
まま母の娘は森の中に連れていかれ、そこで、おそろしいけだものにひき裂かれ、いっぽう魔女のまま母のほうは火の中に入れられ、見るもむざんに焼け死ななければなりませんでした。
この腹黒い魔女のおばあさんが、焼けて灰になってしまうと、子ジカは、人間の姿をとりもどしました。
まさに火あぶり。
そして、兄と妹はこのあと無事、平和に暮らすことになる。
7. 『二人兄弟』の木に座る石像コレクター魔女
KHM060『二人兄弟』は男兄弟の話だが、またまた兄弟ものに魔女が登場する。
ストーリーが長いので、魔女がメインになるわけでなく、一瞬現れてくる。
この物語に登場する魔女は、「魔法の森」なるところに住んでいる。
他の魔女より、ちょっとファンタジーチック(?)だ。
森に迷い込んできた若い王さま(弟)が上を見上げると、そこにおばあさんが座っている。
そのおばあさんこそが、魔女なのだ。
住処にしている森の中を、機敏に動き回っている感じだろうか。
おばあさん魔女は「寒い」と言って、まず若い王さまの気を引く。
「なら降りてあったまりなよ」と王さまは言うのだが、彼は動物の家来を連れていたため、魔女は「動物が怖い」と言って木から降りてこない。
「大丈夫だよ」という王さまに、「木の枝で動物を打ってほしい」と言って、一本の枝を投げ落とす。
これこそが、魔女のトラップである。
王さまも王さまで、なんにも怪しまず、言うとおりに動物たちを叩いてしまう。
そのせいで、動物たちは石になってしまうのだ。
それを確認したあと、魔女は木の上からぴょんと飛び降りて、その木の枝で王さまに触れる。
「動物はなにもしやしないよ。おばあさん、さあ、おりておいでよ」と、王さまは言いました。
ところで、このおばあさんはじつは魔女でした。
「わたしはあんたに木の枝を投げ落とすから、それであんたが動物たちの背中を打ってくれれば、動物たちはわたしになにもしなくなるんだがね」
そう言って、おばあさんが小枝を投げ落とし、王さまがそれで動物たちをたたくと、たちまち、動物たちは身動きしなくなり、石になってしまいました。
おばあさんは動物たちをおそれずにすむとわかると、ぴょんととびおりて、枝で王さまにふれ、王さまも石にしてしまいました。
こうして、王さまも石にされてしまうわけだ。
(しかし、魔女は本当に動物が怖かったらしい…)
そして、このようにしてできた石のコレクションが山ほど転がっている。
森に迷い込んだ人間を石にしてしまう、恐ろしい魔女である。
さて、この若い王さまの「兄」が後日、「弟」を助けに森へやってくる。
同じように魔女に出会い、「寒い」「動物が怖い」と言われるものの、兄は賢く、魔女の言われたとおりに枝で動物を叩いたりはしない。
代わりに、魔女を銃で撃つ強者だ。
しかし、普通の弾ではびくともせず、魔女は「ふんっ、バカめ」みたいな感じで天狗になっている。
魔法の力がきいていて、銃では倒せないわけだ。
(魔女が普通の銃弾で倒れたら、それはそれで悲しい気もする…)
というわけで、兄は「銀の弾」なるアイテムを装着し、魔女へ向かってバン!
この銀の弾には魔女の力がおよばないらしく、ダメージを受けた魔女は木から落ちてくる。
それを足で押さえつけ、「弟はどこだ?言わないと火の中にぶちこむぞ!」と脅す兄。
なかなかにハードボイルドだ。
魔女はおびえながら、石になった弟や、動物たちのところへ案内し、全員を復活させる。
(やっぱりこの魔女、なかなかに憶病である…)
そして結局、再開した兄弟2人によって、火あぶりにされてしまう。
要求をのんで弟を復活させたのに、結局火の中にぶちこまれてしまうわけだ。
ちなみに魔女と言えば、中世の魔女裁判のイメージで火あぶりを連想することが多いと思うが、実はグリム童話に出てくる悪い魔女は、全員が火あぶりになっているわけではない。
今回紹介する10選の中でも、『ヘンゼルとグレーテル』の魔女、『兄と妹』の魔女、そしてこの『二人兄弟』の魔女だけである。
8. 『黄金の子供たち』の石に変える愛犬家魔女
KHM085『黄金の子供たち』に登場する魔女は子犬を飼っている。
そして、『二人兄弟』の魔女と同じく、人間を石に変えてしまう能力を持っている。
物語の終盤で、「黄金の子」なる人物が、狩りをしに森の中へ入っていく。
そこでシカを追いかけているのだが、捕まえることができない。
日が暮れてきて、黄金の子が辺りをキョロキョロしていると、そこで一軒の家を見つける。
これこそが、魔女の家である。
(『ヘンゼルとグレーテル』のような、おいしそうな家ではなさそうだ)
ここに登場する魔女も、やはり「おばあさん」の姿をしている。
「こんなに遅くまで何をしてるんだ」と親切そうに尋ねる魔女に対して、黄金の子は「シカを見ませんでしたか?」と聞く。
おばあさん魔女は「そのシカはよく知っている」と、やはり親切に答えてあげるのだが、そこへ魔女の子犬が現れる。
子犬がワンワン吠えるので、なぜかいきなり黄金の子が「うるさい!撃ち殺すぞ!」と、ブチ切れる。
それを聞いた魔女が、今度は激怒する。
激怒して、魔法を使って、この黄金の子を石に変えてしまうわけである。
そのとき、おばあさんといっしょに出てきた子犬が、この黄金の子にむかって激しくほえました。
「だまらんか、この性質(タチ)の悪いちびすけ。さもないと、撃ち殺すぞ」と、黄金の子は言いました。
すると、魔女はカンカンにおこって、「なんだって、わたしのわんちゃんを殺す気かい」と大声をあげると、すぐさま、黄金の子に魔法をかけたので石になってそこにころがりました。
いや、これは黄金の子が悪いんじゃないか……。
親切に質問に答えてあげてるのに、いきなり自分の愛犬をどなりつけられたら、誰だって怒るだろう。
そして、これもやはり兄弟が助けにやってくるパターンだ。
黄金の子の兄弟が魔女の家にやってきて、魔女を撃つと脅す。
これにひるんだ魔女が、魔法を解いて、石になった黄金の子を復活させるわけだ。
魔女のおばあさんが家から出てきて、この男の子によびかけ、たぶらかしてやろうとしましたが、男の子は近づかずに、「おまえがわたしの兄弟を生きかえらせなければ、撃ち殺すぞ」と言いました。
おばあさんは、しぶしぶ石に指でさわると、あっというまにもう1人の兄弟は命をとりもどし、人間にもどりました。
なんだかんだで、魔女だって人間。
撃たれることには抵抗があるらしい。
しかし、この魔女はとくに何もされず、兄弟が家に帰って物語はハッピーエンド。
石に変える能力を持っているものの、そこまでひどく恐ろしい魔女という印象はない。
9. 『六羽の白鳥』の結婚する魔女娘
KHM049『六羽の白鳥』には、魔女の親子が登場する。
おばあさんの魔女と、その娘である。
この2人の魔女も、森の中にある家に住んでいる。
ある日王さまが狩りをしに森に入り、迷ってしまったときに、おばあさん魔女が現れる。
森に迷ったときに現れる魔女は、けっこう鉄板パターンだ。
王さまはおばあさん魔女に道を尋ねると、魔女は条件付きで道を教えるという。
「はいはい、王さま、教えてあげますとも。ですが、条件があります。その条件を守ってくださらないと、森から二度と出られないし、森の中で飢え死にするはめになります」と、おばあさんはこたえました。
うーん、さすが魔女。
何気にすごく恐ろしいことを言っている。
そしてなんと、その条件とは、魔女の娘と結婚することなのだ。
「わたしには、娘が1人あります。この娘は、この世に2人といないほど、器量よしです。王さまの奥方にじゅうぶんふさわしいですよ。この娘をお妃にしてくださるのでしたら、森から出る道を教えましょう」
魔女の娘というのも、森の中にいてはなかなか結婚相手など見つからないだろう。
おばあさん魔女にとっても、一人娘を嫁にやる、千載一遇のチャンスだったかもしれない。
魔女のことを恐れた王さまは、魔女の娘と結婚することを承諾してしまう。
魔女娘と王さまはお城へ行き、盛大な結婚式をあげることになる。
ちなみにこの魔女の娘、“たいそうきれいな” 娘らしい。
母親はおばあさんであるが、年の差は魔女界ではあまり関係ないのだろうか。
とにかく、きれいな魔女娘はお妃となったが、それでも王さまは気乗りがしない。
美しさに惑わされてどうこうなることはない、強い精神力をもつ王さまだ。
そして、王さまにはもともと6人の兄弟と1人の娘がいるのだが、この子どもたちが魔女の犠牲となってしまう。
お妃となった魔女を恐れた王さまは、子どもたちを森の奥にある別の城へと潜伏させるのだ。
だが、それに気づいたお妃の魔女は、魔法をかけたシャツを縫い、それを持って森へと乗りこんでいく。
そのシャツを子どもたちに投げつけて、1人娘をのぞいた6人の子どもが、白鳥へと変身してしまうのである。
するとお妃は、子どもたちの1人1人に、シャツを1枚ずつ投げつけました。
シャツが子どもたちのからだにふれると、子どもたちは白鳥にかわって、森のかなたにとんでいきました。
お妃は、すっかり満足してお城に帰り、まま子を追い払えた、と思いました。
というわけで、この物語でも魔女の魔法が見られるわけである。
ハロウィンでもお菓子の代わりに、「魔法をかけたシャツ」なんて言って、シャツをプレゼントするのなんていかがだろう。
(もらったほうは飛び上がるかもしれないが、自己責任で…)
ちなみに、この後は6人の兄を救う1人娘の話が中心になり、魔女は出てこなくなる。
とくに魔女親子が火あぶりになったり、制裁を受けたりするわけではない。
(その後、魔女娘と王さまの結婚生活はどうなったのだろうか…)
10. 『森のなかのばあさん』のハトに変身させる魔女
最後は、KHM123『森のなかのばあさん』に登場する魔女だ。
タイトルにある「森のなかのばあさん」こそが、魔女である。
やはり、森にいて、おばあさんであるというイメージは強いらしい。
この物語はあまり長くない。
魔女が出てくるのは、物語の終盤に少しだけである。
一人の女中が、親切なハトに頼まれて、森のなかのばあさん家に行くことになる。
ハトはある指輪を取ってきてほしいと女中に頼むのだが、そのときにおばあさん(魔女)を完全に無視してほしいとのこと。
女中はそのとおりに事を進める。
娘はその小さな家に行き、ドアから入ると、そこには老婆がいました。
老婆はびっくりして目を見張り、娘に、「こんにちは。おじょうさん」と言いました。
しかし、娘は返事もせずに、奥のドアにすすみました。
なんとも無礼な娘であるが、相手が魔女だからいたしかたない。
「どこへ行くんだい」と老婆は大声で言い、娘の上着をつかみ、ひきとめようとしました。
「これはわたしの家だよ、わたしがいいと言わなきゃ、だれも入ってはならないんだ」しかし、娘はだまったまま、老婆をふりはらって、まっすぐ部屋の中に入っていきました。
…魔女ばあさんの言い分はもっともだ。
ここだけ読むと完全に魔女ばあさんのほうが正しいように聞こえるが…。
しかしこの魔女、実は王子さまに変身の魔法をかけていた。
そう、指輪を取ってきてくれといったあのハトだ。
王子さまは、なぜかはわからないが、このばあさん魔女に魔法をかけられ、ハトにされていたのである。
女中が指輪を取ったことにより、魔法が解けて、王子と女中は結ばれることになる。
指輪を取られただけで魔法が解けてしまうのだから、この指輪が魔力の根源だったのかもしれない。
どこぞの『指輪物語』に少し似ているような気もする。
その後の魔女の行方はわからないが、逃げ出したというだけで、命は落としていない。
おまけ. 『いばら姫』のかしこい女
今回ご紹介した10選を見て、「あれ、いばら姫は!?」と、もしかしたら思ったかもしれない。
『眠れる森の美女』で知られるKHM050『いばら姫』に登場する魔女は、実は正確には「魔女」ではなく、「賢女(かしこい女)」だ。
おそらくディズニー版の「マレフィセント」のイメージが強いだろうが、原作の童話ではいかにも悪い魔女というわけではない。
というか、本来は別に怖い存在でもなんでもない。
ただ、姫の誕生パーティに自分だけ呼ばれず、それに怒って仕返ししようとしただけである。
しかしながら、グリム童話では魔女ではないものの、やはりディズニー版の魔女マレフィセントのイメージは強烈だろう。
最後にカラスと合体してドラゴンに変身するなど、なかなか迫力がある。
ディズニーアニメの中では、最強に怖い魔女なのではないだろうか。
むしろ、これまで紹介したどの魔女よりも、ハロウィンにもぴったりな怖さを持っているかもしれない。
(コスプレでも人気がありそうだ!)
ということで、おまけとして最後に紹介しておく。
まとめ
『ヘンゼルとグレーテル』や『白雪姫』など、有名な話に出てくる魔女はよくご存じだろうが、有名どころ以外のグリム童話にも、けっこういろいろな魔女が登場する。
森の中に住んでいるおばあさんというパターンが多いが、たまに普通に結婚していたり、料理人をやっていたりして、おもしろい。
魔法で人をあやめる魔女もいれば、魔法を使わず食べようとしたり、首を切ろうとする魔女もいる。魔女にも、いろいろな形式があるものだ。
グリム童話の恐ろしい魔女の中には、ほうきで空を飛ぶような魔女は出てこない。
というか、三角帽子とほうき、という定番コスプレのような魔女はそもそもグリムの世界にはいない。
その点、ハロウィンっぽくはないかもしれないが、やはり「怖い」描写は多くあるものだ。
興味をそそられる作品があったら、ぜひリアルな童話の「魔女」に注目して、読んでみてほしい。