『眠れる森の美女』のイメージといえば、王子様のキスで目覚める華やかなファンタジーではないでしょうか。
プリンセスストーリーの王道をいく物語ですよね。
王子様のキスで目覚めるのは『白雪姫』でも同じですが、有名なディズニー版と比べて、グリム童話の『白雪姫』には王子様のキスがありません。
では、『眠れる森の美女』はどうでしょうか。
いったい原作では、どうやって姫が眠りから目覚めるのでしょう?
そしてそれ以上に、原作とディズニーとの間でどんな違いがあるのでしょうか?
実は『眠れる森の美女』の原作には、グリム童話版のKHM050『いばら姫』の他に、いくつか別の原作が存在しています。
細かいところで見れば、ジグルドという英雄がいばらの城で眠る姫を助け出すゲルマン系の民話や、ジャンバティスタ・バジーレというイタリア人がまとめた説話集『ペンタメローネ(五日物語)』にも登場します。
でもやっぱり、もっともなじみのあるものといえば、フランスの作家シャルル・ペローが童話集に収めた、いわゆるペロー版の『眠れる森の美女』。別名『眠り姫』です。
そこで、今回はディズニー版とグリム童話版、そしてさらにグリム童話になる以前の原作であるペロー版を比較しながら、『眠れる森の美女』が本当は怖い話であることをお伝えしていきたいと思います。
グリム童話より前の原作『眠れる森の美女』(『眠り姫』)
グリム童話とは、そもそもグリム兄弟がいろいろな人から話を聞き、それを集めたものです。
そして、グリム兄弟と同じように、古くからヨーロッパに伝わる昔話や伝説を集めて童話集を創った人物がいました。
それが、「シャルル・ペロー」です。
フランスの詩人だったペローは、ヨーロッパ各地の民間伝承を集めてアレンジし、文学の域にまで高めました。
その彼の集めた物語が収められているのがいわゆる『ペロー童話集』です。
『眠れる森の美女』もペロー童話集に収められ、グリム童話より早く出版されています。
つまり、ペロー版の『眠れる森の美女』(『眠り姫』)は、グリム童話以前の原作ということになります。
眠れる森の美女が呪われた理由
さて、『眠れる森の美女』に2つの原作が存在することがわかったところで、ディズニー版とこれら2つの物語の違いを見てみましょう。
まずは、魔女が眠り姫に呪いをかける理由に違いがあります。
「ディズニー版」では、王様とお妃さまに待望のお姫様が生まれたため、国中の人たちが招かれ、お姫様の誕生祝いが開催されます。
しかし、「マレフィセント」という魔女だけは招待されません。
自分だけが招待されなかったことに怒ったマレフィセントは、お姫様が「16歳になったら糸車で指を指して命を落とす」という呪いをかけるのです。
国中の人が招待されているのに、自分だけのけものにされて、相当傷ついたのでしょう。
「グリム版」では、国中の人たちが招待されたわけではありませんが、呪いをかけた理由はディズニー版に似ています。
親戚や友人たちとともに「運命を見通す能力をもったかしこい女たち」が招待されました。
しかし、ごちそうをたべてもらう金のお皿が12枚しかないという理由で、13人いる女たちの1人が招待されなかったのです。
招待されなかったことに怒った女は、ディズニー版と同じく、姫に呪いをかけます。
これもこれで、仲間外れにされてかわいそうな気もしますが……。何はともあれ、女の恨みは恐ろしいですね。
さて、一番タチが悪いのは「ペロー版」です。
お姫様の誕生に「7人の仙女たち」が招かれます。
しかし、突然、50年以上も引きこもっていたはずのおばあさん仙女がやってきます。
世間では、彼女はもう生きていないと思われていました。
よって、食事の用意は出来たものの、食器の入った金の箱が用意できていませんでした。
すると、馬鹿にされたと思ったおばあさん仙女は、お姫様に呪いをかけてしまうのです。
食器の入れ物がないだけでっ!?
相当タチの悪いおばあさんですね。
眠れる森の美女の目覚め
魔法にかけられたお姫様を救うため、ディズニー版では妖精が「姫は眠りに落ち、運命の相手からのキスにより目覚める」という魔法をかけてくれます。
つまり、「王子のキスは眠り姫が目覚めるための絶対条件」なのです。
一方、グリム版とペロー版では、王子のキスは存在しません。
なぜなら、妖精(グリム版ではかしこい女、ペロー版では仙女)がかけた魔法はこうだからです。
「王女様は、100年の眠りに落ちることになります」
つまり、100年経つと姫が自動的に目覚めるように魔法をかけたわけです。
ペロー版では、さらにこう続きます。
「百年しますと、ある王子様がいらっしゃって、お姫様を眠りから呼びさますでしょう」
なんと王子の出現まで魔法の力で叶えられてしまうのです。
100年経って眠りから覚めた眠り姫は王子と出会い、結婚します。
ディズニー版でも、グリム版でも、ペロー版でも、眠りから覚めたら王子様と結ばれてめでたし、めでたし。
眠れる森の美女のお姑さんが怖い
と思ったところで、ここからが本当は怖い『眠れる森の美女』。
ペロー版では王子との結婚生活が恐怖です。
あろうことか、お姫様のお姑さん(つまり王子の母親で一国の王妃さま)が「人食鬼」だったのです!
王子との間に2人のかわいい子どもを授かって、幸せに暮らす眠り姫。
このかわいらしい子どもたちを食べたくてしょうがない王妃さま。
人食鬼と一つ屋根の下。
とってもスリリングです。
ある日、王子が留守なのをいいことに、王妃様は料理人頭(コックさん)にこう言います。
「わたしは、あすのお昼食にあのオーロール(上のこども)をたべたいよ」
優しい料理人頭はオーロールを自分の家にかくまい、代わりに仔羊を料理して、王妃に出しました。
何も知らず、王妃はむしゃむしゃ美味しそうに食べてしまいます。
孫なのに。
一週間後、王妃は「夕食に、あの小さいジュール(下のこども)をたべたい」と言います。
料理人頭はまたもや子どもをかくまい、代わりに仔山羊の肉を王妃に食べさせました。
王妃は大満足。
孫なのに。
そして、今度は「眠り姫を食べたい」と言いだします。
料理人は困って、またもや姫をかくまい、代わりに鹿の肉を王妃様のために料理しました。
姫(本当は鹿)を美味しくいただいた王妃は、自分の残酷な望みがかなってご満悦。
王子が帰ってきたら、「姫と子どもたちは飢えにくるった狼にたべられてしまった」と言おうと決めました。
欲に狂った人食鬼に食べられるより、飢えに狂った狼に食べられた方がまだマシでしょうね。
王妃様は少なくとも食には困っていないはずですからね。
しかし、ここまでうまくいっていたのに、姫と子どもたちが生きていることがついに王妃にバレてしまいます。
怒り狂った王妃さまは、大桶(おおおけ)にガマやマムシや毒へびやらをいっぱい入れて、その中に姫と子どもたち、料理人頭とその妻、ついでに料理番の女まで投げ込もうとします。
料理番の女にいたっては完全な「とばっちり」です。
そしてみんなが大桶に投げ込まれるまさにそのとき、やっと王子様が帰ってきます。
当然、「これはいったいどういうことなんだ」と驚く王子様。
王妃さまは、自分が完全に不利なことをさとり、自ら大桶の中へまっさかさまに飛び込んで、自分が入れたおそろしい動物たちに食べられ、命を落とします。
一番怖いのは、「蛇たちに王妃さまが食べられるシーン」。
蛇に食われまくる最期を想像してしまうと、かなりグロテスクですね……。
まとめ
ディズニーの『眠れる森の美女』には、妖精が登場したり、王子様がお姫様のためにドラゴンと闘ったり、「運命の人」とのキスでお姫様が目覚めたり、ファンタジーの要素が盛りだくさん。
しかし、グリム童話版と、それ以前の原作であるシャルル・ペロー版とでは、ストーリーがかなり違ってきます。
姫に呪いをかける女の正体や、招待された理由が変わっていたり、姫が眠りから目覚めるシーンも、原作ではキスではなく勝手に目覚めるだけです。
そして何よりペロー版では、結婚したあとの嫁姑問題がとてつもなく厄介。
なにせ、姫の姑に当たる王妃さまは人食鬼であり、姫はじめたくさんの娘をディナーにしようとしたわけです。
人食鬼との嫁姑問題。
やはり現実でもおとぎ話でも、結婚後が「一番怖い話」なのかもしれませんね。
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