白雪姫の原作に、ディズニーみたいな王子のキスはない?

白雪姫といったら、どんなイメージだろうか?
ディズニー映画のおかげで、これまで多くの人に親しまれてきた白雪姫であるが、多くの人はそのもとになっている本当のグリム童話の白雪姫を知らないのではないだろうか。
いま子どもたちの読み聞かせなどで用いられる白雪姫は、たいていがディズニー版のやさしい物語に基づいているものだろう。
最近は、「怖いグリム童話」として、白雪姫が例に出されることも多いため、ディズニー映画や、子供のころに語られてきた白雪姫とのちがいを検索する人も増えている。
やっぱり、「本当の原作は怖い」なんていわれると、気になってしまうものである。
では、ディズニー版とグリム童話版で、いったい何がちがっているのか、今回はそこに注目してみたいと思う。
白雪姫の王子の存在感
ディズニー版では王子さまは極めて目立つ存在である。
これは白雪姫にかぎった話ではないが、ディズニーといえば、かっこいい王子さまときれいなお姫さまのキュンキュンする恋愛が特徴であり、人気の秘訣でもある。
ディズニー映画版の白雪姫では、白雪姫は王子さまのキスによって、死んでいた状態から目覚めることになる。
まさに、王子さま。
ディズニー版では、王子さまは突然あらわれた白馬の騎士的なポジションなのだ。
そして、白雪姫も、映画を見ている人たちも、それにキュンキュンしてしまうのである。
もちろん最後にはめでたく結婚し、しあわせに暮らすことになる。
対して、グリム童話のほうはどうだろう。
まず、王子さまの最初の登場シーンでは、森の中で棺(ひつぎ)に入れられた白雪姫を見て、こびとたちがなげいているのを発見する。
そしてこともあろうに、王子はその棺を「売ってくれ」というのだ。
なぜかというと、白雪姫を棺のまま自分の部屋に飾っておきたいからなのである。
助けようとしたのではなく、そのまま飾っておきたかったのだ。
この描写に対して、白雪姫の王子は「死体愛好家」だった、なんて声もあがっているが、王子が死体愛好家であるという正確な描写はない。
王子の扱いは、ディズニー版とグリム版とで大きな差がある。
主役級にバリバリ活躍するヒーロー王子であるのがディズニー。
ご臨終した白雪姫入りの棺を欲しがる脇役的存在なのがグリム童話である。
白雪姫が目覚めるとき
さて、王子さまの話ついでに、白雪姫が死からよみがえるときも見てみよう。
ディズニー版では上でいったとおり、王子さまのキスによって目を覚ます。
初恋の人のキスが、毒を消してくれるという設定らしい。
なんともロマンチックな流れである。
ではグリム童話ではどうだったか。
そもそも白雪姫を助けるのは王子さまではなく、王子さまの「召使い」である。
もちろん、そこに王子のキスはない。
王子がこびとから白雪姫の棺をもらい受け、それを召使いに運ばせている最中のこと。
召使いは木に足をひっかけて、そのはずみで棺が揺れ、白雪姫が飲みこんでいた毒リンゴの一部がのどから出てきたため、生き返るという話だ。
白雪姫が生き返ったのは、召使いがたまたまドジだったから。
注意深く、しっかりした召使いが棺を運んでいたら、白雪姫はご遺体で飾られたままだったかもしれない。
ロマンスのかけらもないストーリーである。
ちなみに、この白雪姫が生き返る場面は、グリム童話の中でもさらに原稿版や初版とでまた違いがある。
いろんなバージョンの『白雪姫』が存在するわけだ。
白雪姫の女王の最期
女王、つまり「鏡よ鏡……」といっている白雪姫のまま母が死ぬ描写は、まったくもってちがう。
ディズニー版では、白雪姫が死んだあと、女王はこびとたちに追いつめられる。
そして崖までやってきたときに女王は反撃しようとするのだが、そこへ雷が落ちて崖がくずれ、そのまま落ちて死んでしまうという話だ。
いってみれば、「不慮の事故」である。
対してグリム童話版では、女王は最後、白雪姫の結婚式にのこのことやってくる。
そこには、鉄のくつが用意されている。
この鉄のくつは炭火の上に置かれていて、しっかりと焼けた状態である。
女王はそのくつをはいて、死ぬまで踊りつづけなくてはいけないという死刑が待っていたのである。
よくよく考えれば、たいした「拷問」だ。
グリム童話には、このほかにもいろいろな拷問が出てくる。
まったく、子どもに聞かせるには残酷な拷問ばかりだ。
「グリム童話の白雪姫が怖い」とされる理由は、やはりこの最後の女王殺しであろう。
まとめ
怖いグリム童話とはよくいわれるが、世の中に浸透している白雪姫と、グリム童話の白雪姫の比較はその中でもなかなかおもしろい。
ロマンスのかけらもない王子や、えげつない死に方をする女王など、リアルに描写したらなかなかエグいストーリーができあがるのではないだろうか。
怖いグリム童話を描いた作品なども、興味のある人はぜひ見てみてほしい。