「ランプの精」といえば、ディズニーの『アラジン』でおなじみのジーニーが思い浮かぶだろう。
もちろん、その原作である「千夜一夜物語」の中のひとつ、『アラジンと魔法のランプ』にもランプの精は登場する(⇒『アラジン』原作のジーニーは怖い?ディズニーと千夜一夜物語を徹底比較! )。
アラジンの世界ではとっても有名な「ランプの精」だ。
だが、実はグリム童話にも「ランプの精」に似たキャラクターがいることをご存知だろうか。
今回は、「え、これアラジンのパクリじゃない?」と一瞬思うような、ランプの精らしきキャラが登場する2つのグリム童話を紹介しよう。
『ガラス瓶の中の化け物』に登場するランプの精
まずは、KHM099『ガラス瓶の中の化け物』だ。
といっても、『ガラス瓶の中の化け物』に出てくるランプの精は、ランプに入っているわけではない。
タイトルにもあるよう、「瓶(びん)」の中に入っているのだ。
まあ、ランプもびんも、せまいことには変わりないだろう。
具体的にどんな流れでランプの精が出てくるのか、ここから細かく見ていこう。
魔物入りのびんを発見
話は、父親と息子が働いているところから始まる。
息子を大学に入れてやりたいがために、金を稼ごうと必死で働く父親。
そんな父親を見て、息子も一緒になって働く。
アラジンとちがって、働き者だ。
2人の仕事は木こりで、森に行って木を切ったりするわけだが、その休み時間、息子のほうが1人で森の中をぶらぶらする。
そこで、突如聞こえてくる不思議な声。
「出してくれ、出してくれ」
いや、怖い。
森を一人で歩いていて、いきなりこんな声が聞こえてきたら、さぞかしびっくりするだろう。
しかし息子は冷静に、
「どこにいるんだい」
と場所を聞き、ガラスのびんを発見する。
その中にいるのが、まさにランプの精……ではなく「化け物」だ。
訳によっては、「お化け」とか「魔物」になっている。
魔物のほうがそれっぽいので、ここからは「魔物」と呼んで、話を進めていこう。
ガラスびんの魔物の特徴
姿はこんな感じ。
「蛙のようなかたちをしたものが、びんのなかでぴょんぴょんはねているのが見えました」
怖そうに思えて、なんとも可愛らしい魔物だ。
そして相変わらず「出してくれ、出してくれ」と言っているので、息子は普通にびんの栓をぬいて、魔物を出してやる。
やはり、できた息子だ。
びんの中から飛び出た魔物は、ぐいぐい大きくなって、木の半分にもなる大男になる。
ディズニーのジーニーのように、ランプから出てきて大きくなるなるわけだ。
ガラスびんに戻される魔物
さて、出てきた魔物は、息子に対してこう問いただす。
「おれを助け出してくれたお礼がなんだか知っているか」
そんなもの知るわけない。
息子も冷静にそう返すと、魔物はこう言う。
「お返しに、おまえの首をへし折らなくてはならんのだ」
なんじゃそりゃ。
せっかく出してくれたのに、首を折るのか。
せまい場所から出てきた魔物は、どれもいい奴とは限らないらしい。
っていうか、首をへし折るなんて言われたらさぞかし怖いだろう。
しかし、息子も大学を目指す学生。
あわてふためくことなく、冷静に切り返す。
「それをさきに言ってもらいたかったね」
まったくだ。
だったら、閉じ込めたままにしておいたほうがいいじゃないか。
頭の切れる学生は、さらにこう付け加える。
「おまえがほんとうに小さなびんのなかにいたかどうか、ほんとうの魔物かどうか確かめなくちゃならん。ほんとうにまたびんのなかへ入れるなら、おまえの言うことを信じてやろう」
この言葉に、まんまと引っかかる魔物。
びんの中に逆戻りして、息子に栓を閉められてしまう。
一件落着。意外とまぬけな魔物である。
ちなみにこの魔人、ちゃんと自己紹介をするのだが、名前は「メルクリウス」というらしい。
メルクリウスといえば、ローマ神話で有名な「マーキュリー」のこと。商人と旅人の守護神だ。
そんな神がこんなにまぬけなわけはないので、おそらくカン違いかハッタリだろう。
ガラスびんの魔物の能力
しかし、意外とこの魔物、ここから腕の見せ所だったりする。
ランプの精にも似ているこの魔物が、こんな単純な終わり方をするわけがない。
もちろん、ガラスびんの魔物だって、ちゃんと能力を持っている。
もっと言えば、魔法のかかったアイテムを持っている。
それが、「布切れ」である。
お礼をやるぞと言って息子を説得し、もう一度びんを開けてもらうことに成功した魔物。
ここはちゃんと約束を守って、お礼である「布切れ」を学生に渡す。
効果は以下の通り。
- いっぽうのはしで傷をなでれば、傷が治る
- もういっぽうのはしで鋼や鉄をなでれば、それが銀に変わる
なかなか便利なアイテムじゃないか。
ランプの精なんてオシャレなものじゃなくても、頭が弱くてまぬけでも、ちゃんと役に立つ能力はあるのだ。
そして、息子は木を切るのに使っていたオノをなでて、銀に変える。
そのオノを売って大金を作り、父親を楽させるとともに、自分は大学行く。
最終的には医者になるという、完璧なサクセスストーリーだ。
ガラスびんの魔物も、これはかなり役に立ったことになる。
願いを叶えるというくだりはないが、十分幸せになっただろう。
『アラジン』のような華やかな魔法はないが、出会った人間のほうがうまく利用した「ランプの精」である。
『青いランプ』に登場するランプの精
次に、グリム童話のKHM116『青いランプ』を見てみよう。
タイトルからして、こちらは正真正銘の「ランプ」である。本によっては、『青い明かり(灯り)』になっていたりもするので、つまりは「青の炎」ということだ。
青い炎を出すランプから、ランプの精が登場する話である。
さっそくどんな流れか、詳しく見ていってみよう。
井戸に落とされる兵隊
この話はまず、クビになった兵隊が将来に希望を見いだせず、森をぶらぶらしているときに、魔女の家を見つけるところから始まる。
家に泊めてもらう代わりに、兵隊は仕事をしなければならない。
その仕事のひとつに、井戸の中にある「青いランプ」を引き上げるというものがあった。
魔女は兵隊をかごに入れて井戸の中へ降ろす。
青いランプを取ったのを確認して、また兵隊を引き上げる。
ここで兵隊は気づいてしまう。
きっと、ランプだけ取って、自分を井戸の中へ落とすつもりだと…。
そこで、「自分の安全を確認するまでランプを渡さない」と言うと、魔女は大激怒。
結局、ランプごとまた兵隊を井戸へ落としてしまうのだ。
ん、どこかで見たような展開……。
そう!
これはまるで、ジャファーが魔法のランプを取ってきたアラジンを、洞窟の中へ突き落とすシーンじゃないか。
ちなみに、ランプを渡さないといって大激怒し、ランプごと突き落すというのは、「千夜一夜物語」のほうで見られる展開である。
ランプの精は黒いこびと
井戸の底でもうダメだと悟る兵隊。
青いランプはまだ燃えているので、この世の別れにと、たばこで一服しようとする。
そのときだった。
青いランプで火をつけ、煙が広がってきたころに、「黒いこびと」が現れるのだ。
そして、このセリフ。
「ご主人さま、ご用はなんでしょうか」
『アラジン』でも、似たようなセリフでジーニーは登場するじゃないか(言い回しはだいぶ違うが……)。
こびとは続けてこう言う。
「わたしはあなたが望むことを、なんでもしなくてはならないのです」
ディズニーの『アラジン』では願いは3つだったが、『青いランプ』の精(こびと)には、回数制限はないらしい。
その辺は、「千夜一夜物語」に出てくるランプの精と似ている。
ということで、ここからは青いランプの精を「こびと」と呼んでいこう。
ちなみに、こびとを呼び出すには、青いランプでパイプに火をつけるだけでOK。
ランプをこするよりは少し手間だが、火さえつけることができれば、どこにでも来てくれるらしい。
こびととともに井戸から脱出
兵隊の願いは、まず井戸から脱出すること。
ディズニー版も千夜一夜物語も、『アラジン』で最初にすることは脱出だ。
ジーニーのごとく、こびとは兵隊の手を取って魔法を使ってビューンと飛んでいく……となりそうなところだが、そこは意外と現実的。
兵隊の手を取ったあとは、地下に隠された通路を案内するだけだ。
んー、やはり『アラジン』のような華やかさはない……。
でも、その途中で魔女の隠してあった宝物のありかを教えてくれる。
そこにあった金貨を、ちゃっかり盗んでいくのだ。
ちょいワルなこびとと兵隊である。
金貨も盗んで、いざ地上へ。
次は、魔女への復讐だ。
こびとが魔女をしばりあげる
地上へ出たところで2つ目の願い。
それは、さんざん痛い目にあわされた、魔女をしばりあげることだ。
こびとに向かって、兵隊は早速お願いをする。
「魔女をしばりあげて、裁判官のところへ連れていけ」
この願いを言った瞬間、魔女は山猫に乗って、ものすごい叫び声とともに飛んでいってしまう。
その後すぐこびとが戻ってきて、この一言。
「すっかりかたがつきました。魔女は首つり台にぶらさがっています」
おお!
これはかなりランプの精っぽい魔法だ。
相手だって魔女なんだから、それなりに魔法も使えるだろうに。
青いランプのこびと、なかなかにできるやつである。
こびとが王女を連れてくる
兵隊は3つ目の願いをこびとに言う。
それは、自分をクビにした王さまに仕返しをすること。
具体的には、王女を女中にして、働かせるというものだ。
兵隊は、こびとに王女を連れてくるよう言う。
そこでこびとはこんなセリフをはく。
「そんなことはわけもありませんが、でも、あなたは危ない橋をわたることになりますよ」
こびとも、言われたことを淡々とやるわけではないらしい。
兵隊をご主人様であるとしっかり認識して、リスク管理も徹底しているのだ。
この辺りは、ディズニーのジーニーにも似ている。
だが、そんなことを言われて引き下がる兵隊ではない。
もちろん、連れてくるようにと言って、こびとは王女を一瞬のうちに連れてくる。
そして、下働きをさせるのだ。
働かされた夢を見たと語る王女に、王さまは疑問を抱く。
そして、次に連れ去られたときのため、豆を落としていくようにとワナを張るのだ。
『ヘンゼルとグレーテル』の作戦である(⇒ヘンゼルとグレーテルはよく読むと怖い?!)。
だが、青いランプのこびとはやっぱりすごい。
きちんとこの話も聞いていて、あらかじめいろんな道に豆を落としておくのだ。
見事な目くらまし。悪知恵の働くこびとである。
3日目、豆の作戦にまんまとハマった王さまは、今度は靴を隠してくるよう王女に言う。
もちろん、こびとはこの話をいつの間にか聞いている。
が、今度は打つ手がないらしい。
「今回はやめておいたほうがいい」と、こびとは兵隊を制止する。
が、兵隊はそんなの無視。
こびとに命令し、王女を連れ去ってくる。
その後、靴を隠した王女のトラップに引っかかってしまい、兵隊はつかまってしまう。
こびとの言うことを素直に聞いておけばよかったのに……。
こびとが王様たちを殴り倒す
だが、もちろん兵隊も黙っちゃいない。
牢屋の中から、昔の兵隊仲間を使って、青いランプを取ってきてもらう。
そして、ランプのこびとを呼び出すと、こびとはこう助言する。
「どこへつれていかれようと、なにをされようと、相手の言いなりになっていてください」
なるほど、すぐには逃がさないようだ。こびとも頭が切れる。
そして、兵隊が処刑されそうになったとき、最後の願いとして、一服させてもらうことにする。
もちろん、パイプには青いランプで火をつける。
ここで、青いランプのこびとが処刑台に登場。
この時点で、手には「こん棒」を持っている。
そこで、おなじみのこのセリフだ。
「ご用はなんでしょうか、ご主人さま」
そして、兵隊のこんな願いが飛び出す。
「ふとどきな裁判官とその手下どもをなぐりたおせ。おれをひどい目にあわせた王様も容赦するな」
言われたとおり、こん棒を持って暴れまくるこびと。
こうして、こびとが全員殴り倒して、兵隊は王国と王女を手に入れてしまうのだ。
ランプの精を悪に利用した、悪い見本である。
それにしても、命令を受ける前からこん棒を持っていた青いランプのこびと。
殴り倒す準備は万端だったということか……。
まったくもって、恐ろしさ全開の怖いこびとである。
まとめ
ということで今回は、グリム童話に出てくる「ランプの精」の物語、2作品を比較してみた。
- グリム童話『ガラス瓶の中の化け物』の魔物
- グリム童話『青いランプ』のこびと
実際、これらどちらの物語のおいても、千夜一夜物語『アラジンと魔法のランプ』との類似性が指摘されている。
アラビアンナイトの世界に影響を受けた、まさに「ランプの精」なのである。
『アラジン』とはちがった、グリム童話のちょっと怖いランプの精も、ぜひ楽しんでみてほしい。