『ヘンゼルとグレーテル』と言えば、お菓子の家。
ビスケットの屋根、氷砂糖の窓、チョコレートの柱。ケーキのスポンジでできた壁に、生クリームののった煙突。
甘党じゃなくても、一度はあこがれたことがあるのではないでしょうか。
しかし、そんなファンタジーの影に隠されて、この童話のちょっと怖い一面を忘れがちではありませんか?
ということでこの記事では、グリム童話集からKHM015『ヘンゼルとグレーテル』のダークな部分をピックアップしてみたいと思います!
森に捨てられるヘンゼルとグレーテル
貧しいきこりの家で育てられたヘンゼルとグレーテルの兄妹。
きこりにはおかみさんがいました。
ヘンゼルとグレーテルにとってはまま母です。
毎日の食べ物に困るくらい貧乏なきこりは、その日食べるパンを手に入れることもできず、心配で夜も眠れません。
そんなとき、まま母が子どもたちを森の奥に置き去りにすることを提案します。
彼女はこう言います。
「子どもたちは帰り道がわからないから、これでやっかい払いができるというものよ」
子どもたちの父親に向かって「やっかい払い」とは、子どもをやっかいだと思っていることがモロバレですね。
ちなみに、グリム童話初版では、まま母ではなく実の母親であったとされています。
初版は基本的に、より残酷な描写となっていることが多いですね。
さて肝心の父親は、そんなことをしたら恐ろしい獣に子どもたちが引き裂かれてしまうと猛反対。
けっこうリアルな反論です。
しかし、何度もまま母にうるさく責め立てられ、父親はしぶしぶ承諾します。
このとき、ヘンゼルはこの話をこっそり聞いていて、夜のうちに石を拾ってポケットの中に詰めこんでおいたのです。
次の日、父親、まま母と一緒に、ヘンゼルとグレーテルは薪拾いのため、森へ入っていきます。
まま母からすれば、子どもを捨てて、生活費を確保しようとする瞬間です。
家族を捨てに行くという意味では、『うばすて山』と呼ばれる日本の民話に少し似ているかもしれません。
ヘンゼルとグレーテルが森の中で小枝を集めてくると、まま母はたき火をして、2人にそこでよく休むように言いました。
そのまま、ヘンゼルとグレーテルを残して、大人2人は森を去っていきます。
父親たちに置いていかれたことがわかり、妹のグレーテルは泣き出してしまいます。
ですが、賢いヘンゼルがポケットに仕込んでおいた石を道に落としていったため、それをたどって家に帰ることができたのです。
1回目のたくらみは、これでなんとか回避です。
しかし、何日か経ってから、まま母はまた子どもを追い出そうと、父親に提案します。
強く責め立てられた父親は、しかたなくまま母の意見に従うことにしました。
しかも今回は、まま母が戸にカギをかけてしまったため、ヘンゼルが石を拾いにいくことはできませんでした。
しかし賢いヘンゼルは、翌日森に行くときに、今度はパンくずを地面に投げ捨てておきました。
パンくずをたどって、家に帰るためですね。
余談ですが、ブログやサイトに見られる「パンくずリスト」というやつは、ヘンゼルがパンくずを捨てて道しるべを作ったことに由来する言葉らしいですね。
けれども、今回ヘンゼルとグレーテルが連れてこられたのは、生まれてから一度も来たことがないような、深い深い森の奥でした。
前回と同様にたき火のそばで待っていたヘンゼルとグレーテルは、眠くなって寝てしまい、起きると辺りはすっかり夜に。
泣いているグレーテルをなぐさめて、ヘンゼルは道に落としてきたはずのパンくずを探しますが、悲しいことにパンくずは小鳥たちに食べられてしまっていました。
2人は夜通し歩いたけれども、森から出ることができません。
暗い夜の森の中で、いつ襲いかかってくるかわからない獣の気配に怯えながら、歩き続ける幼い兄妹。
現実の世界で考えると、なんともかわいそうな話です。
ヘンゼルとグレーテルを助けるお菓子の家の魔女
さて、家を出てから3日目のお昼に、ヘンゼルとグレーテルはようやくお菓子の家を発見します。
ちなみに、「お菓子の家」と言われることが多いですが、実際のところ、“家はパンでできていて、窓は白い氷砂糖、屋根はレープクーヘンというはちみつとスパイスの入ったドイツのクッキーで出来ている” とのこと。
おなかのすいたヘンゼルとグレーテルが、たまらずポリポリと家をかじり出すと、優しい声をしたおばあさんが出てきます。
もちろん、「魔女」です。
怖くないよーと言いながら、家の中に子どもを招き入れる、なんとも怖そうなおばあさんです。
ひとまずおばあさん(魔女)は、ヘンゼルとグレーテルをありとあらゆるごちそうでもてなします。
夜になると、美しいベッドを整えて、2人を寝かしつけてあげます。
最初は油断させておく作戦ですね。
ですが次の日の朝になって、優しいおばあさんは豹変します。
朝、おばあさんはすやすやと寝ている子どもたちのところへ行くと、ヘンゼルを捕まえ、家畜小屋にぶち込んで閉じ込めてしまいました。
そして、グレーテルのところへ行って、揺さぶり起こしてどなりつけます。
もてなした翌日に、魔女の本性もろ出しです。
魔女は、料理をしてヘンゼルに食べさせろと、グレーテルに言います。
ヘンゼルを太らせて、それを魔女が食べるというプランです。
この魔女はなかなか用意周到で、パンの家を建てたのも、もともと2人をおびきよせるためだったのです。
罠を張って、美味しそうな子どもを手に入れ、料理して食べる日を待っていたわけですね。
魔女が人間を襲うイメージはなんとなくあると思いますが、子どもを太らせて食べるというのはあまりないかもしれません。
このあたり、なかなか残酷な『ヘンゼルとグレーテル』です。
グレーテルが魔女の最期をもたらす
さて、『ヘンゼルとグレーテル』の残酷な魔女の描写であるが、実は魔女の最期もなかなかに残酷です。
魔女は毎朝ヘンゼルのところへ行き、太ったことを確認するため、指を差し出すよう命令していました。
これに対し賢いヘンゼルは、毎日、小さい骨を魔女の前に差し出していました。
魔女は目が悪かったため(おばあさんだから?)、その骨をヘンゼルの指と勘違いしたのです。
4週間たってもヘンゼルは相変わらず痩せたままだったが、魔女は我慢ができなくなって、ヘンゼルを食べることにしました。
グレーテルは魔女に命令されて、お兄さんを煮るための水を運びます。
かわいそうなグレーテル。
お兄さんを料理するための手伝いをしなければならないなんて……。
だが、あくどいのはむしろグレーテルのほうだった。
魔女はグレーテルを火の入ったパン焼きかまどのほうへ突き飛ばし、火がよく回っているか見てくるよう命令しました。
グレーテルがかまどの中に入ったら、かまどのふたをして、焼いて食べるつもりだったのです。
しかし、グレーテルは強かった!
そんな魔女の悪質な考えをしっかり見抜いていたのです。
グレーテルは「やり方がわからない」と魔女に訴えました。
そこで魔女は、お手本を見せようと自ら腹ばいになって、頭をかまどに突っ込んでしまいます。
その瞬間、グレーテルは魔女をかまどの中へ突き飛ばすのです。
さらに魔女をかまどの奥へ押し込むと、鉄の戸を閉めて、かんぬきをさしてきっちりと閉じ込めます。
そのまま、魔女はすさまじい声をあげながら、炎に焼かれていくのです。
グレーテルの勇気と知恵はすごいですが、かまどで魔女を丸焼きにするとは、なかなかのものですね。
生きながら、メラメラと燃える炎で焼かれる魔女は、なんともおぞましい姿であったことでしょう。
しかも、ザリガニのからしか食べていなかった幼い女の子に焼かれてしまうとは……。
こうして、魔女を倒したヘンゼルとグレーテルは、魔女の家の中で真珠や宝石を見つけることになります。
2人はちゃっかりそれをもって、自分たちの家に無事帰ることができました。
陰湿なまま母はその間に亡くなっていたため、ヘンゼルとグレーテルと父親の3人が、宝物のおかげで幸せに暮らすことに。
残酷なストーリーであったが、一応はハッピーエンドです。
まとめ
今回は、よくよく考えると残酷な『ヘンゼルとグレーテル』を紹介しました。
お菓子の家が出てくるメルヘンだとか、賢く優しい兄妹の話だと思われがちですが、ストーリーは最初から最後までけっこう残酷な描写が多いですね。
子どもを暗い森の中に置き去りにするまま母だったり、罠を張って子どもを待ち伏せする人食い魔女だったりと、なかなか怖い要素たっぷりな童話です。
そして、最期にかまどの中で焼かれている魔女の姿を想像してみてください……。
『ヘンゼルとグレーテル』は、やはり本当は怖いグリム童話だといえるのではないでしょうか。