青髭に似たグリム童話初版の物語『人殺し城』が怖い?

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青髭に似たグリム童話初版の物語『人殺し城』が怖い?

今回は、怖いグリム童話の定番『青髭』にとてもよく似た『人殺し城』というグリム童話を紹介しよう。

『人殺し城』も、『青髭』と同じく、グリム童話初版のみに収録され、その後は削除された作品だ。

もちろん、その残酷さゆえのものだが、実はもともとオランダの話であるので、基本ドイツ作品のグリム童話からは撤退している。また、『青髭』と似ていることも、削除理由のひとつだ。

『青髭』と似ているということで、その中身はホラーそのもの。

しかも、『青髭』のタイトルに比べて、『人殺し城』とダイレクトにヤバそうな作品である。

実際、どこがヤバいのか。

さっそくこの『人殺し城』を、『青髭』とも比べながら読み解いていこう。

目次

金持ちにつられる娘

『人殺し城』にはまずひとりの靴屋が登場する。

靴屋といえば、『小人の靴屋』でも怖いモチーフになっている。

が、今回は靴屋が主人公ではない。

この靴屋には3人の娘がいる。

あるとき、立派な身なりの男が、豪華な馬車に乗ってこの靴屋をたずねてきた。金持ち男と言えば、青ひげ男爵様も同じである。

そしてあろうことか、この男が靴屋の3人の娘のうちの1人に惚れて、自分の「城」へと連れていってしまう。

『青髭』でも、惨劇が起こるのは城だった)

娘のほうも、金持ちの男と一緒になれるなら、幸せだと思ったわけだ。

なんてあさはk……いや、女性なら誰もが夢見る(?)玉の輿シチュエーションであろう。

しかし、これはグリム童話の初版

そう簡単に幸せにしてくれるわけがない。

城へ行く途中で、金持ち男はこう尋ねる。

「後悔なさっていませんか?」

この質問に、娘は後悔なんてしていないと答えるが、内心はものすごく不安になるのだった。

女のカンは働くものである……。

はらわたをかき出すおばあさん

さて、城へ来た最初に日は何事もなく終わるが、問題はその翌日。

男は、大事な仕事があるからといって、出かけていってしまう。

そのとき、男は娘にこう告げる。

「城の中をくまなく見られるように、鍵はみんなおまえにあずけていこう。おまえがどんな富と財産の持ち主か、とくと見たらいい」

なるほど、「開けるな」と言いながら鍵を渡した青ひげさんと違って、なかなか寛大である。

そんなことを言われたら、もちろん城の中を歩き回る娘。

まちがいなく立派な城だ。

そして、地下室へとやって来る。

城の地下室なんて、いかにも怪しい雰囲気である……。

ここで登場する新キャラが「おばあさん」である。

グリム童話で出てくる「おばあさん」といえば、「魔女」であることが多い。

が、今回のおばあさんは魔女よりもヤバい。

なんと、「はらわた」をかき出しているのである。

誰のはらわたなのか詳細には語られていないが、おばあさんはこんなセリフを吐いている。

「はらわたを掻き出しているのさ、お嬢ちゃん。あしたはあんたのも掻き出すんだよ!」

これはつまり、この娘もはらわたコレクションの一つになってしまうということ。

この城に来た娘たちは、毎回はらわたをかき出されて、命を落としているのだろう。

しかも、それは城の主である男がやるわけではなく、使いのおばあさんにやらせているわけだ。

自分の手は汚さない、卑劣な男である。

はらわたのシーンを見た娘は、びっくりして持っていた鍵を「血のたらい」の中に落としてしまう。それはもう、恐ろしかったことだろう。

童話ではさらっと物語られているが、ふつうに考えて、はらわたがかき出されるシーンとかヤバすぎる。スプラッタホラー映画で作りものだとわかっていても、あまり見たくない。

しかし、『人殺し城』の娘が見たものは、作りものなんかではないのだ。

しかも、鍵を血たらいの中に落としたせいで、その血が鍵から取れなくなってしまった。

とくに魔法がかかっているわけではなさそうだ。

『青髭』では、魔法がかかっているせいで血が取れなくなってしまい、それがきっかけで青ひげ氏に狙われるハメになる。

いろいろショックを受けながら、さらに次のおばあさんのセリフに驚愕する。

「さて、これでおまえは死なないわけにはいかなくなったよ。ご主人さまとわたし以外は誰も入ってはいけない部屋におまえが入ったことが、ご主人さまにわかってしまうからね」

ちょっと待て。

「城の中をくまなく見て」いいんじゃなかったのか!

これはある意味、『青髭』よりタチが悪い。

『青髭』は「開けてはいけない」という約束を破った娘のほうが悪いといえば悪い。

『人殺し城』は完全に巻きこまれ型だ。

さらに、初版の訳には気になる記述がある。

(ふたりの姉もこのようにして殺されてしまったことを、知っておいてください)

ものすごいさりげなく挿入される一文だが、いつの間にか姉2人もやられていたのだ。

3人姉妹がひどい目に合うくだりは、『フィッチャーの鳥』にそっくりである。

いったい、どれだけの娘が犠牲になっているのか。

『人殺し城』の主人もおばあさんも、かなり悪どい連中である。

おばあさんが助けてくれる!?

ところが次の瞬間。

なんとはらわたをかき出すおばあさんは、娘に「逃げる方法」を教えてくれる。

干し草を積んだ馬車が城から出ていくときに、その干し草に隠れていればいいというのである。

おばあさん、やさしいのか何なのか、よくわからない。

とにかく、そのおかげで無事に逃げ出すことができる娘。

しかもおばあさんは、戻ってきた城の主人に「娘はすでに始末した」といって、娘をかばってくれる。

何の義理もないが、おばあさんはいい人(?)だった。

こうして娘は助かるわけだが、おばあさんがいなかったら、そのままそこでお陀仏だったかもしれない。

『青髭』の場合、娘は助かろうと自力で時間を稼いでいるが、『人殺し城』はおばあさんさまさまである。

自分自身の行いで運命が決まる『青髭』に比べ、他人に振り回されるのが『人殺し城』のテーマといってもいいだろう。

金持ち男の最後

さて、無事に逃げ出した娘は、そのまま別の城へと運ばれていく。

そちらの城の主人はいい人のようで、ひどい目にあった娘を助けてくれるのだった。

何をしてくれたのか。

この主人なかなかの大物のようで、周りの城にいる貴族たちを集めてパーティを開くというのだ。

シンデレラに出てくるような、城での大宴会といった感じだろうか。

そして、そのパーティに人殺し城のヤバい主人も招待する。

人殺し城の主人も、表向きはやはり立派な貴族なのだろう。

そこで娘も、正体を隠してパーティに参加することになった。

全員がそろったところで、ひとりひとり話をしていく。

そこで娘は、みんなの前で人殺し城で起きたことの話をした。

悪の張本人がいる前で、すべてを暴露。公開処刑である。

さらに、パーティを開いた城の主人は「できる男」で、すでに裁判官を手配し、人殺し城の主人を追いつめていた。

みんなの前で犯人を暴露し、逃げようとする犯人はすでに取り囲まれている状態。

どこぞの探偵もののようである。

結局、人ごろし城の主人は、そのまま牢屋に入れられ、財産も没収されてしまって終わりだ。

たいてい悪人は最後に命を落とすグリム童話において、この終わり方は極めて健全といえるだろう。

『水戸黄門』のような、勧善懲悪もので終わっている。

こういった話が削除されたせいで、ある意味「怖いグリム童話」ができあがったのかもしれない。

その後、娘も城の息子と結婚して、めでたしめでたしのハッピーエンドである。

もちろん『青髭』では、青ひげさんは最後に命を落とす。

そういう意味では、『青髭』のほうがグリム童話らしいのかもしれない。

いずれにせよ、両方の作品は第二版以降で残念ながら削除されてしまっている。

まとめ

今回は、グリム童話初版のみに載っている『人殺し城』という物語をご紹介した。

グリム童話の初版作品として有名な『青髭』にとっても似た童話である。

二つの作品をかんたんに比較すると、以下のように違いがまとめられる。

青髭⇒

  • 兄がいるひとりの娘が主人公
  • 青ひげが「開けるな」と言いながらも、鍵を渡す
  • 開けるなと言われたにもかかわらず、鍵を開けて入った部屋で、青ひげに手をかけられた女性のコレクションを発見
  • 扉を開けたことが青ひげにバレて、殺されかける
  • 時間を稼いでいるうちに兄がやってきて、青ひげを切り倒す
  • 青ひげの財産を家族で山分けし、娘も別の男と結婚する

人殺し城⇒

  • 3人姉妹のうち、ひとりの娘が主人公
  • くまなく見てもいいと言われて入った部屋で、おばあさんがはらわたを取り出している
  • おばあさんが逃がしてくれる
  • 近くの城の主人に助けてもらう
  • 人殺し城の主人は、裁判官につかまって牢屋行き
  • 娘は助けてくれた城の主人の息子と結婚する

やはり『人殺し城』のポイントは「おばあさん」であろう。

娘たちに手をかけている張本人であり、主人公の娘をなぜか逃がしてくれるキャラクターでもある。

何を考えているのかよくわからない、いや、何も考えていないのかもしれない人物だ。

(ちなみに、共犯者であるこのおばあさんがその後どうなったかは謎だ…)

話のボリューム的に少ないのもあるかもしれないが、『人殺し城』のタイトルの割には、恐ろしさが少しゆるくなっている。

だが娘の立場でリアルに想像すると、城に連れていかれて、はらわたをかき出すおばあさんを見るなんて、やはり怖すぎる。

さすが、『青髭』と似ているグリム童話初版作品だ。

■引用・参考
初版グリム童話集〈2〉

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