『白雪姫』の原作には、その残酷さにいくつかのパターンがあることをご存知でしょうか?
ディズニー版と比べて、グリム童話の『白雪姫』には「王子のキス」がなかったり、「女王が鉄のくつで焼かれる」などの残酷な描写があったりと、大きく違うことは有名です。
しかし実は、グリム童話になる以前も、『白雪姫』の原作が存在していました。
その最初の作品からグリム兄弟によって何回か書き変えられたため、さまざまバージョンの『白雪姫』があるわけです。
いったい『白雪姫』は最初の物語からどう変わったのか?
今回は、グリム童話よりも前の原作に注目しながら、『白雪姫』の物語について詳しく見ていきたいと思います!
グリム童話より前の白雪姫の原作
グリム童話とは、そもそもグリム兄弟がいろいろな人から話を聞き、それを集めたものです。
話をしてくれた人たちの中で、知名度が高く、よく名前を聞くのが「マリー・ハッセンプフルーク」という女性。
この女性はグリム兄弟ともかなり親しく、たくさんのお話を聞かせています。
『白雪姫』の最初のお話、つまりグリム童話より前の原作も、マリー・ハッセンプフルークさんが聞かせたものなのです。
(ちなみに、マリーさんはフランス人のお母さんから話を聞いたようです。)
最初の白雪姫と、グリム童話初版とのちがい
では、マリー・ハッセンプフルークさんが語った話と、グリム童話初版に入った話とで、白雪姫がどう変わったのかを見ていきましょう。
グリム童話のキーワードである「残酷さ」に焦点を当てて、その違いを追っていきたいと思います。
1. 白雪姫の最初の狙われ方
まず、原作の『白雪姫』に見られる残酷さのちがいは、女王が白雪姫を手にかけようとするその「手段」です。
知ってのとおり、女王は「鏡よ鏡……」と、鏡にこの世で一番美しいのは誰かと聞きます。
白雪姫が一番美しいといわれた女王は、それを妬んで白雪姫を狙おうとするわけですね。
この白雪姫を狙う場面が、グリム童話より前の原作(マリー・ハッセンプフルークの語った話)では次のような流れになっています。
女王様と白雪姫は、森へ一緒に出かけた。
そこには美しい赤いバラが咲いていた。
女王:「白雪姫、きれいなバラを取ってくれない?^^」
白雪:「わかりました!」
白雪姫がバラを取りに馬車から降りた。
そのとたんに、馬車はすごい勢いで去っていった。
白雪姫は森に置き去りになった。
女王は、白雪姫を森の獣たちに食べさせたかったのである。
(※グリムCLUBによる要約です)
こんな感じです。
グリム童話に入る前の原稿段階では、白雪姫はただ森に置き去りにされるだけだったのです。
ところが、これがグリム童話初版に収録されたものを読んでみると、ちょっと変わってきます。
女王は狩人を呼んだ。
そしてこう命令した。
女王:「白雪姫を森に連れてって、殺せ!殺したら肺と肝臓を取ってこい!塩で煮て食ってやる!」
(※グリムCLUBによる要約です)
白雪姫の内臓を塩で味つけして、食べるつもりでいたのです。
しかもそれを女王自らやるのではなく、なんにも悪くない狩人にやらせるのだからまったくあくどいですね。
だいぶ残酷な話になってしまいました。
そして現在のグリム童話(7版)では、この「内臓食べるバージョン」がそのまま採用されて残っています。
なお、グリム童話初版の女王は、白雪姫のまま母ではなく、なんと「実の母親」です。
実の母親が娘の内臓を食べるという、すさまじい話なわけです。
ハンニバル・レクターも驚きですね。
2. 白雪姫の復活のしかた
次に、白雪姫が復活するシーンに目を向けてみましょう。
まずは、グリム童話より前の原作がどんな感じだったのか。
原稿の段階では、白雪姫の父親である王さまがどこかへ出かけている設定で始まります。
王さまが、帰ってくる途中に森を通った。
そこで白雪姫が死んでいる棺(ひつぎ)を発見した。
白雪姫が死んだことがわかり、悲しんだ。
それで、王さまが連れていた仲間に医者が何人かいて、その医者たちはこびとに頼んで白雪姫の死体をゆずってもらった。
それから、部屋のすみに縄をはった。
白雪姫は生き返った。
(※グリムCLUBによる要約です)
こんな感じですね。
つまり、白雪姫がのどにつまらせた「毒リンゴ」がどうたらっていう話はまったく無関係。
医者が縄をはっただけで生き返ったことになっているのです。
そもそも医者のくせに、身体をいじるとか、そういうことはしないんですね。
縄をはるという、アフリカの村で流行っているような儀式、いわゆる呪術のようなもので白雪姫を生き返らせたのです。
きっと、謎の言語で呪文か何か唱えたのでしょう。
そのあと、白雪姫は無事お城に帰って、どこからともなく現れた王子さまと結婚し、幸せに暮らします。
ストーリーの最中に王子のかげがまったく見えないのは、なんだか切ないですね。
これに対して、グリム童話初版ではちゃんと王子が登場します。
王子がこびとたちのところで泊めてもらおうと思ってやってくると、そこで白雪姫の棺を発見。
「美しいから売ってほしい」とお願いする場面です。
さて、そこからはこんな展開で話がすすんでいきます。
王子は白雪姫の棺を、召使いにかつがせて城へ持っていった。
城の中で、召使いたちはいつも棺をかつがされるので、怒っていた。
あるとき、召使いの一人が棺の中から白雪姫を出して、持ち上げた。
召使い:「ふざけんな!こんな死んだやつのせいで、なんで苦労しないといけないんだ!
キレた召使いは白雪姫の背中をなぐった。
すると、飲みこんだ毒リンゴのカケラが出てきて、白雪姫は生き返った。
(※グリムCLUBによる要約です)
……じっくり考えると、いろいろとシュールな点にあふれていて、なかなかに笑えてくる話ですね。
最初の原作ではそれなりにスムーズに生き返った白雪姫。
しかし、グリム童話になってからは、怒った召使いに殴られて生き返るという、ブラックコメディのような展開になってしまったわけです。いや本当、どこかのコントにありそうな話です。
ちなみに、生き返りのシーンはグリム童話の最終版(7版)でさらに改変。
召使いが木に足を取られて棺が揺れたせいで、毒リンゴがのどから出てくることになります。ドジな召使いのおかげで、白雪姫は生き返るわけです。
おなじみのディズニーアニメ版ではもちろん、「王子さまの甘いキス」で目を覚まします。
変化を追ってみると、ずいぶんとむちゃくちゃな変わり方をしてきたと実感できますね!
まとめ
ということで今回は、グリム童話『白雪姫』よりも、さらに前の原作版について見てみました。
よくディズニーとグリム童話とで比較される『白雪姫』。
しかし、グリム童話になる前の原作、つまり「マリー・ハッセンプフルークさんが聞かせたお話の原稿」と、そのあとの「グリム童話初版」とで比較すると、『白雪姫』を残酷にしたのはグリム兄弟だということがわかります。
- 原作→白雪姫を森に置き去り
- 初版→白雪姫の内臓を食べる
- 原作→医者が縄を張って白雪姫復活
- 初版→キレた召使いが殴って白雪姫復活
総合的に見ると、やっぱりグリム童話初版の白雪姫が一番残酷でダークなものということですね。
数々のスピンオフも出ている『白雪姫』のルーツはなかなかに奥が深いものです。
あなたもぜひ、他のバージョンの『白雪姫』をいろいろと探ってみてください!