ハリー・ポッターの怖いグリム童話?『吟遊詩人ビードルの物語』とは

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ハリーポッターの童話?吟遊詩人ビードルの物語

あなたは『ハリー・ポッター』の世界に、グリム童話のような童話が存在することを知っているだろうか?

ハリー・ポッターが好きで、映画も見ているのに「は?グリム童話?」と思ったそこのあなた。

今回の記事で、人気児童文学『ハリー・ポッターシリーズ』と、グリム童話の関係を詳しく解説するので、ぜひ最後まで読んでみてほしい。

『ハリー・ポッター』に登場するグリム童話っぽい童話は、その名も『吟遊詩人ビードルの物語』(The Tales of Beedle the Bard )という。

シリーズを最後まで読んだ、もしくは映画もすべて見た方なら、きっと存在はご存知だろう。

実際のところ、いったいどんな童話なのか、そしてどこがグリム童話っぽいのか。

今回は『吟遊詩人ビードルの物語』について詳しく見ていこう。

目次

『吟遊詩人ビードルの物語』とは

『吟遊詩人ビードルの物語』は、ハリー・ポッターが活躍する魔法界に存在する童話集である。

その存在は、シリーズ最終巻『死の秘宝』で初めて存在が明かされる。

魔法界では子供の頃から読み聞かされるベッドタイムストーリーであり、人間界(『ハリー・ポッター』の中では「マグル界」と呼ばれる)でいうところの『白雪姫』『シンデレラ』のようなものだ。

ヨークシャー出身の魔法使い、吟遊詩人ビードルが15世紀にルーン文字で編纂したとされている(グリム童話のように、自分で書いたわけではなく、イギリスに伝わる寓話などを集めたものだ)。

なんとこの架空の童話集、実際に『ハリー・ポッター』作者のJ・K・ローリング氏が、2008年に書き下ろし、出版もされているのだ。

そのまま『吟遊詩人ビードルの物語』というタイトルで、5つの童話が収録されている。

  • 魔法使いとポンポン跳ぶポット (The Wizard and the Hopping Pot)
  • 豊かな幸運の泉 (The Fountain of Fair Fortune)
  • 毛だらけ心臓の魔法戦士 (The Warlock’s Hairy Heart)
  • バビティ兎ちゃんとペチャクチャ切り株 (Babbitty Rabbitty and her Cackling Stump)
  • 三人兄弟の物語 (The Tale of the Three Brothers)

ちなみに、これはルーン文字で書かれた原書を、ハーマイオニーが翻訳したことになっている。

最後には、ダンブルドア先生の解説もついていて見どころ満載である。

もちろん、ハリポタファンにはおなじみであろう、『死の秘宝』で取り上げられた『三人兄弟の物語』も収録されている。

そんな『吟遊詩人ビードルの物語』、実はよく読んでいくと、グリム童話との類似点がたくさん見つかるのだ。

もちろん、魔法界の童話であるがゆえ、主人公は基本的に魔法が使える。

魔女や魔法使いがわき役であるグリム童話とは、そこが大きな違いである。

しかしながら、やはり童話という特性上、似ている部分も多くあっておもしろい。

2つの関係を知るとより深く『ハリー・ポッターシリーズ』を楽しむことができるだろう。

ということで、『吟遊詩人ビードルの物語』から、2つの物語を紹介していこう。

なお、以下のあらすじは結末までネタバレがある。

これから読むので一切の情報はお断り!という方は、まずは現物を読んでみてほしい。

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もっとも有名な『三人兄弟の物語』

ひとつは『死の秘宝』にて非常に重要な役割を果たしている『三人兄弟の物語』である。

あらすじは以下の通り。

昔、三人の魔法使いの兄弟が旅をしていると、とても深くて危険な川に出くわす。彼らは魔法で架け橋を作り、渡ろうとすると、そこに「死」があらわれる。「死」は、これまで多くの人が命を落としてきた中、彼らがそれを逃れたことに怒っていた。ずるがしこい「死」は、3人のすばらしい魔法をほめたたえ、ほうびとして何でも物を与えるという。

一番上の兄は、誰にも負けない杖(つえ)を望むと、死はそばに生えていたニワトコの木の枝で杖を作り、手渡す。二番目の兄は、死者を蘇(よみがえ)らせる術を求めると、死はそばに落ちていた小石を「蘇りの石」だと言って手渡す。一番下の弟は「死」を信用しておらず、「死」から跡をつけられずに先へ進む術を求めたので、「死」はしぶしぶ自分の持ち物である透明マントを手渡す。

その後、三人兄弟はそれぞれ別の道に進み、一番上の兄はかつての宿敵を杖で滅ぼした後、宿屋で自分の最強の杖を自慢する。するとその夜、兄は別の者に杖を取られたあげく、殺されてしまう。

二人目の兄は、若くして亡くなってしまった恋人を蘇らせるが、彼女は現実世界に属する者ではなかったため、余計に惨めな思いをする。やがて二人目の兄は傷心し、自殺する。こうして、「死」は容赦なく二人の兄を手に入れた。

しかし一番下の弟は透明マントで賢く「死」から身を隠し、年老いてからマントを息子にたくす。そして、かつての友である「死」を喜んで迎え、同じ仲間として旅立っていくのであった。

『死の秘宝』では、この物語に登場する3つのアイテムが、シリーズ全体の鍵となっているわけだ。

つまりこの童話、めちゃくちゃ重要である。

ハリーの通うホグワーツ魔法学校の校長であり最強の魔法使いと呼ばれるアルバス・ダンブルドアや、映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズの重要キャラクターであるゲラード・グリンデルバルドも、かつてこの3つの秘宝を探し求めていた。

3つ揃えれば「死を制する者」になれるという、とっても魅力的な秘宝である。その秘宝についての成り染めが語られているのが、『三人兄弟の物語』というわけだ。

これから『ファンタスティック・ビースト 黒の魔法使いの誕生』で若きダンブルドアとグリンデルバルドを見る人は、ぜひ覚えておこう。

『三人兄弟の物語』に見られるグリム童話との共通点

さて、重要な役割を果たしてくれるこの『三人兄弟の物語』という童話には、実はグリム童話と似ているところがある。

というか、ベースにはグリム童話のモチーフが盛りだくさんだ。

グリム童話との共通点は、3つほどあげられる。

  • 三人の兄弟が旅をするモチーフ
  • 死神とも呼べる「死」の登場
  • 一番下の弟が成功するという結末

それぞれ見てみよう。

三人の兄弟が旅をするモチーフ

グリム童話には、3人の兄弟のモチーフは登場する。

むしろ、タイトルそのまま『三人兄弟』という話もあるくらいだ。(⇒KHM124『三人兄弟』

グリム童話の『三人兄弟』も、魔法界の童話と同じく、3人の兄弟が旅する話である。

さすがにまったく同じストーリーではなく死神は出てこないが、モチーフとしてはかなり似ている。

ほかにも、兄弟ではないが、KHM120『三人の見習い職人』という童話では、3人が悪魔と出会うなど、ビードルの『三人兄弟の物語』に近い部分がある。

ものすごく短い話だが、KHM138『クノイストと三人の息子』なんて話でも、3人兄弟が旅をする。

男兄弟に限定しなければ、主人公が3人セットのモチーフはなかなかに多いのだ。

死神とも呼べる「死」の登場

日本語の「死神」は英語に直すと the Deathとなり、『吟遊詩人ビードルの物語』の原作(英語)でもこの言葉が使われる。

deathを日本語訳すると「死」になるが、つまりは死神と同じである。

グリム童話の死神は、KHM044『死神の名付け親』や、KHM082『道楽ハンスル』KHM177『死神の使いたち』などに登場する。

死神はどのような手段を用いても、人間の命を奪いにくる。普通に考えて、怖い存在である。

とくに『死神の名付け親』では、死神をだますと恐ろしい目にあうことがわかる。決してだましてはいけない。

にもかかわらず、『三人兄弟の物語』では、二人の兄は死神をだましてしまったわけだ。

そりゃ最後に命を取られてしまうのにも納得だ。

しかし、一番下の弟は、二人の兄のように死神をだましてはいない。

透明マントを望んだのは、まだ「そのとき」が来ないうちは、死神から逃れようとしたからだ。

あくまでも、自然に寿命が尽きるのを待って、自分はあくまでも死神と「同じ仲間として」旅立つのである。

これなら、死神も納得なのではないだろうか。

くり返すが、『吟遊詩人ビードルの物語』は魔法界の童話集。

魔法界だからといって、魔法で寿命をのばしてはいけない。

人間の世界と同じように、自然の法則に従って生きることが一番だという美徳があるわけだ。

一番下の弟が成功するという結末

グリム童話では、もともと一番バカにされている末の弟が最終的に成功する話が非常に多い。

たとえば、KHM091『土の中の小人』KHM165『怪鳥グライフ』などがいい例だ。

グリム童話ではないが、『三匹の子豚』でも、一番下の弟が一番かしこい。

3番目という数字には、強い力が秘められているイメージだ。

『三人兄弟の物語』でも、自然な生き方を望んだ弟が一番賢いという形で描かれている。

不必要に人の命を奪う杖を望んだり、死者を蘇らせる石を望んだりと、二人の兄たちは自然法則にそむいているわけだ。

欲望丸出しはよろしくないよ、ということだろう。

こういった物語は、やがて失敗する兄たちの行動と、成功する弟の行動とを比べるとおもしろみが出てくる。

その点は、魔法界の童話でもきちんとおさえられている。

200年以上、世界で語り継がれるグリム童話のベースを、きちんと取り入れているわけだ。

『ハリー・ポッター』は、主人公ハリーが「死」と直面し、「死」から学び成長していく物語とされている。

『三人兄弟の物語』もシリーズ全体のテーマに沿って、「死」を最大のモチーフとしている。

この点は、命がなくなる描写の多いグリム童話も同じだ。

童話を読むことで、子供の時から「死」を身近なものとして感じられるようになっているのかもしれない(人間界も、魔法界も)。

『毛だらけ心臓の魔法戦士』の心臓モチーフ

最後にもう一つだけ、紹介しておこう。

怖いグリム童話のように残酷でグロテスクな魔法界の童話、その名も『毛だらけ心臓の魔法戦士』だ。

『吟遊詩人ビードルの物語』に収録された5つの物語の中で、一番グロテスクで残酷な話である。

あらすじはこんな感じ。

ある若い魔法使いは、友人たちが恋愛におぼれ、力をなくしているのを見て、自分はそうなるまいと決意する。そして、ある黒魔法を使って自分を強くする。周りが結婚し、子供をもうけても、その魔法使いは独りの生活を続ける。やがて両親は亡くなり、魔法使いは独りで城にこもっていた。

そんな自分に誇りを持っていた魔法使いは、ある日、自分の召使いが、誰にも愛されず、結婚もせずにいる自分のことを影で哀れんでいるのを耳にする。ショックを受けた魔法使いは、良く思われたいがために、誰にも負けないほど美しい娘を手に入れようと決める。

すると、すばらしい家系のお金持ちで、誰もが見とれるような美しい魔女があらわれる。魔法使いは、魔女とその家族を城の宴会に招待する。

そこで、魔女は魔法使いに連れられて地下牢に行き、魔法使いの秘密を知ることになる。魔法使いは、自分の心臓を取り出して、ずっと箱の中に収めてあったのだ。その心臓には黒い毛が生えていた。魔女はその心臓を身体の中に戻すようにいい、魔法使いはそのとおりにする。

しかし、長い間身体から引き離されていた心臓が元に戻ると、魔法使いは人間の心臓を欲しがるようになった。そして魔女の胸を切り裂き、魔女の心臓を取り出して、自分の心臓と入れ替えようとする。しかし自分の心臓を取り替えることはできず、魔法使いは2つの心臓を握りしめたまま、死んだ魔女のもとで息絶える。

とまあ、心臓を欲しがって魔女の胸を切り裂くなど、グロテスクな描写が多い作品である。

余談だが、心臓を抜いて箱に隠すというモチーフは、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』でも見られた。

また、国民的アニメ「ドラえもん」の大長編映画『のび太の魔界大冒険』でも、心臓だけ遠く離れた宇宙に隠してある、というネタがある。

もちろん、グリム童話でも心臓のモチーフはよく見られる。

KHM118『三人の軍医』では、一人の軍医が自分の心臓を一度取り出してもう一度戻す術を披露するが、しまいには豚の心臓と入れかわってしまうことになる。

心臓を取り出して入れ替える、という点では『毛だらけ心臓の魔法戦士』にそっくりだ。

ほかにも、以下のグリム童話で心臓モチーフが使われている。

と、けっこう心臓のオンパレードである(動物の心臓が多いが)。

心臓はグリム童話だけでなく様々な伝説で「生命」の象徴として扱われている。

『毛だらけ心臓の魔法戦士』の魔法使いは、その「生命」を取り外すことですべての感情を取り払ってしまう。

あげくの果てには、長い間身体から切り離されていた「生命」を元に戻すことによって野獣化してしまう運命が描かれるわけだ。

しかし、この物語も映像化すると、怖いグリム童話のようにだいぶグロテスクなものになるに違いない。

仮にスピンオフとして映画化されたら、興味をひかれて映画館に足を運ぶか、いやいやそんな怖そうなもの見たくないとなるか……

あなたはどちらだろうか?

まとめ

今回の記事では、ハリー・ポッターに出てくる『吟遊詩人ビードルの物語』をご紹介した。

まさにハリー・ポッター版グリム童話ともいうべき位置づけの、魔法界の童話である。

しかも物語の鍵を握るのが、この童話だ。

その怖さや残酷さのテーマは、グリム童話に似ている部分が多くある。

童話というものは、どこの世界が舞台であれ、子供に聞かせるのには少々残酷すぎるようなものも存在するのである。

グリム童話に馴染みがあることで、さらに深く楽しむことができる『吟遊詩人ビードルの物語』

一度読み比べてみてはいかがだろう。

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※本ページの情報は2023年9月時点のものです。最新の配信状況は U-NEXTサイトにてご確認ください。

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