『美女と野獣』と『シンデレラ』。
この2つの物語、なんとなく似ていると思ったことはありませんか?
2020年9月には東京ディズニーランドに「野獣の城」が登場し、シンデレラストーリーの象徴である「シンデレラ城」のライバルとなりました。
これはディズニーのテーマパークの話だけでなく原作の物語でも同じで、王子様との幸せを手に入れるベルの物語は、ある意味で別の形の「シンデレラストーリー」と言えるかもしれません。
実際、王子様と結ばれる結末以外にも、原作の『美女と野獣』と『シンデレラ』にはさまざまな共通点が存在します。
この記事では、そんな『美女と野獣』と『シンデレラ』の似ている部分を細かく探っていきたいと思います。
『美女と野獣』も『シンデレラ』も、もとはフランスの物語です。
『美女と野獣』は、1740年にガブリエル=シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴによって書かれました。
1756年にそれを短縮して出版したのが、ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン。ボーモン夫人という愛称で親しまれています。現在、世の中に広く知られているのは、ボーモン夫人が書いた短縮版で、ディズニー映画『美女と野獣』もこのボーモンさんのバージョンから派生しました。
一方の『シンデレラ』はフランス人作家シャルル・ペローが書いた童話が原作ですが、その後グリム童話に収録され、グリム童話の『シンデレラ』として有名になっています。
今回は、このボーモン夫人の『美女と野獣』と、グリム童話の『シンデレラ』の共通点を見ていきます。
ベルとシンデレラの境遇が不幸
まず、『美女と野獣』も『シンデレラ』も、主人公の不幸さがそっくり。
『シンデレラ』では、主人公シンデレラの母親は他界し、父親が意地悪なまま母と再婚。2人の、これまた意地悪な姉たちとともに、家にやってきます。
まま母と姉たちはシンデレラにボロボロの服を着せ、毎日毎日、家の家事を全部やらせます。
『美女と野獣』では、主人公ベルに3人の兄と2人の姉がいます。
母親は登場しません。父親は商人で、家は裕福でした。
2人の姉はお金があるのを鼻にかけて、毎日のようにパーティやお芝居にでかけ、贅沢三昧。
ところが、あるとき商人は、商売に失敗して全財産を失ってしまいました。
唯一残った田舎にうつり住み、必死に働くベルと兄たち。
ベルは毎朝4時に起き、家の仕事をし、糸を紡ぎます。
一方、2人の姉は朝遅く起き、家事一切を妹のベルに押しつけ、毎日なにもせずぶらぶらするばかり。
贅沢と権力を愛する「2人の姉」と、「働き者の妹」。
この構図にシンデレラ感が高まります。
美人で慎ましいベルとシンデレラの性格
境遇だけではなく、ベルとシンデレラは性格も似ています。
突然ですが、『美女と野獣』の主人公の名前はベルではありません。
本当は別に本名があるんですが、子どものころから美しかったので、人々は「ベル・アンファン(belle enfant)」(=フランス語で「いちばん美しい子」)と呼んでいました。
「いちばん美しい子」が名前になるとは相当の美人だったのでしょう。
一方、シンデレラも本名はシンデレラではありません。
本名はエラ(Ella)ですが、暖炉の掃除をして身体中が灰まみれだったので、まま母から「シンデレラ(cinderella)」(=英語のcinders【灰】+Ella【エラ】で、灰かぶりのエラという意味)」というあだ名を付けられました。
「灰かぶり」と呼ばれ、ぼろをまとっていても、姉たちより百倍美しかったと書かれています。
美しさだけではなく、主人公2人の性格が似ていることを表すエピソードがあります。
シンデレラのお父さんが遠くへ出かけるとき、おみやげに何が良いか尋ねると、2人の姉がきれいな服と真珠と宝石をお願いしたのに対し、シンデレラは「お父様の帽子に最初に当たった小枝」をお願いしました。
慎ましく、多くを望まない性格がわかります。
同じように『美女と野獣』では、父親が出かけるときに、姉たちが毛皮やドレスなど豪華なものを頼みます。
それに対してベルが頼むのは、「1本のバラ」。
お金が足りなくなるかな、と思い、最初はなにも言いませんでしたが、姉たちの手前、いい子ぶっているように思われるのがいやだったので頼んだものです。
シンデレラと似て、慎ましい性格が垣間見えるエピソードです。
しかし、幸か不幸か、これがこの物語の発端を担います。
意地悪な2人の姉
「意地悪な姉」と聞けば、ほとんどの人がシンデレラを思い浮かべるでしょう。
でも、ベルの姉たちもけっこうひどいんです。
ベルの父親は、歩いている最中に迷い込んだ野獣のお城で、頼まれたおみやげのためにバラを1輪とって帰ります。
家についてベルにバラの枝を手渡し、泣きながら野獣の城でのできごとを話す父親。
野獣は父親に、バラを盗もうとした償いとして「娘を差し出せ」と言っていたのです。
その話を聞いて姉2人は悲鳴をあげて、ベルを責めたてます。
「あんたがひとりだけ目だとうとして、バラの花なんていうからいけないのよ。自分のせいで、お父さんが死ななきゃならないのに、よくそんなにへいきでいられるわね」
引用:『美女と野獣』(偕成社)
辛いときに責められたら、さらに辛いですよね。
お姉ちゃん……妹をそんなに責めないで。
ベルはあとに残る家族の気持ちを考えて、涙を見せず、父親の代わりに自ら野獣の元に向かう決意をします。
そんな妹のけなげさをねたんでいた姉たちは、ベルがいなくなるのを喜び、別れのときには、姉たちは目に玉ねぎをこすりつけてわざと泣きます。
ここまで来ると、発想が幼稚で笑えますね……。
野獣の元へ行ったベルは、大切にもてなされました。
しばらくして父親が病気になったことを知り、1週間だけ実家に戻ります。
前よりずっと美しくなったベルを見て、姉たちは
陥れてやろう。
ベルが1週間しても戻らなければ野獣は怒ってベルを食べてしまうだろう。
と思い、ベルをひきとめます。
いやー腹黒い!血のつながった妹なのに。
野獣の元に行くように妹を責め立て、いざ幸せになって帰ってくると嫉妬に狂い陥れようとする。
シンデレラの姉たちにも劣らない、醜い心の持ち主です。
姉たちへの仕打ちがひどい
さて、童話の世界では悪者はだいたいやっつけられるもの。
意地悪な姉たちも、なかなかにひどい仕打ちを受けます。
シンデレラの姉たちは親指やかかとを切り取られ、最終的にはハトに両目をくりぬかれてしまいます。
シンデレラの姉たちに起きた残酷なできごとについては、以下の記事で詳しく紹介しているのでぜひ見てみてください。
『シンデレラ』と同じく『美女と野獣』でも、心が醜いベルの姉たちはしっかり仕打ちを受けます。
ベルが野獣との結婚を承諾すると、野獣は王子様に姿を変えます。
お城では、ベルの家族と仙女が待っていました。
そして、仙女はベルの2人の姉たちを、生きたまま石像にしてしまいます。
生きたままって、相当苦しいですよね。
いっそひと思いに息の根を止めてさしあげればよい……まあ、いろいろと事情があるのでしょう。
『シンデレラ』でも『美女と野獣』でも、意地悪な姉たちには罰が下ります。
両目をくりぬかれるのと、生きたまま石にされるの、どっちがマシなんでしょう?
いずれにせよ、妹がお金持ちになったのですから、欲を捨てて優しくしていたら、意地悪な姉たちの最後もハッピーエンドだったのかもしれませんね。
ちなみに翻訳によっては、「姉たちへの仕打ち」の部分が省略されています。
ヴィルヌーヴ夫人の原作にはなかった心の醜い「姉たちへの仕打ち」を、ボーモン夫人は子どもたちへの教訓として物語に付け足しましたが、生きたまま石にされる衝撃は小さな子どもにはなかなかショックが大きいかもしれないですね。
まとめ
ディズニーの不朽の名作『美女と野獣』と『シンデレラ』。
どちらも主人公が美しく、最後には王子様と幸せになるシンデレラストーリーですが、原作の物語には他にもさまざまな類似点がありました。
ベルとシンデレラの境遇や性格、そしてどちらにも登場する意地悪な姉たちは、最後に残酷な報いを受けます。
こういった似ている部分も含めて、『美女と野獣』は『シンデレラ』のライバルとなり得る、もう一つのシンデレラストーリーと言えそうですね!
余談ですが、『シンデレラ』の意地悪な姉たちを主役にした新作ディズニー映画が、2021年9月現在制作中のようです。
せめて映画の中では、2人の姉たちが幸せを手に入れてくれるといいのですが……。