ディズニー/ピクサーの大ヒット映画『リメンバー・ミー』(2017)に登場する犬のキャラクター「ダンテ」は、映画の中で一番不思議なキャラクターではないでしょうか。
主人公の少年ミゲルとともに、死者の国に入り一緒に旅を続け、なぜか突然、精霊のアレブリヘになってしまいます。
いったい、ダンテにはどんな役割があって、どんな意味があるキャラクターなのでしょうか。
なぜ死者の国に行けるのか、その正体や犬種なども含めて、ダンテという犬について少し踏み込んで考えてみましょう。
なお、話のネタバレも含んでいるので、まだ観ていない人は注意してください。
ダンテが『リメンバー・ミー』で果たす役割
ここでは、『リメンバー・ミー』でのダンテの登場シーンやダンテが果たす役割を振り返ってみましょう。
本筋のきっかけを作るダンテ
はじめ、ダンテは主人公ミゲルの家の近くでうろついている野良犬として登場します。
ミゲルはダンテを飼いならしていて、近所の市場で食べ物を買い、それをエサとしてあげたりしています。
そもそも、「ダンテ」という名前もミゲルがつけたもので、ミゲルの憧れの音楽家、エルネスト・デラクルスが映画で乗っている「馬」の名前からつけたものです。
ダンテもミゲルになついているが、ミゲルの祖母はいつも容赦なく野良犬であるダンテを追い払ってしまいます。
ミゲルは死者の日に広場で行われる音楽コンテストに出るため、音楽を禁止する家族に隠れてこっそりと自作のギターとダンテを連れて出て行こうとしますが、家族に見つかりそうになります。
危機一髪でミゲルはギターとダンテを祭壇の下に隠したので、ダンテはなんとか見つからずにすみました。
しかし、食べることが大好きなダンテ。
ミゲルの家族が立ち去ってから、あろうことか祭壇のお供え物を食べようとしてしまいます。
そして、ミゲルがそれを止めようとした衝撃で祭壇のバランスが崩れ、飾られていた写真の額が割れてしまいます。
その写真を見て、音楽のために家族を捨てて出て行ったとされるミゲルのひいひいおじいちゃんは、エルネスト・デラクルスなのではないかとミゲルが気づきます。
そこからこのストーリーの核心がスタートするので、ダンテはそもそもそのきっかけを作った大事なキャラクターです。
死者の国に難なく入るダンテ
そのあと、ミゲルの音楽家になりたいという夢は家族から猛反対され、祖母に自作のギターを壊されてしまい、感極まって家を飛び出してしまいます。
そんなとき、近くのゴミ箱をあさっていたダンテは、ミゲルを見つけてすぐに追っかけていきます。
デラクルスの墓地に行ったミゲルは、デラクルスのギターを盗んだことで、死者の世界に飛ばされてしまいます。
そのときから、ミゲルのことが見えるのは「死者の日」に生者の国へ帰ってきていた死者だけ。
生きている者はみんなミゲルの体をすり抜けてしまいます。
そんな中、デラクルスのお供え物を食べてしまったからなのか、ダンテも死者の世界に入り、ミゲルのことが見えるようになります。
そして、なんとダンテはミゲルの亡くなった親せきたちがいるところまでミゲルを連れて行くのです。
現実世界では食べ物にしか目がなかったいかにも単純な犬といった感じのダンテは、死者の国に入ったとたんに突然賢くなったようですね。
ミゲルを追っかける身だったダンテが、死者の国では途端に立場が逆転し、ミゲルの前を歩くようになります。
まさに、死者の案内人といったところでしょう。
死者の国でも最初、ダンテは「ただの老犬」「散髪屋の床に落ちてるソーセージ」などと言われたりしてしまっているが、毛がない割には死者にアレルギーを引き起こさせたりもしていて、結構影響力のある犬のようです。
ダンテの正体はアレブリヘ?
ミゲルは家族が祭壇に写真を飾ってくれていないために生者の国へ帰れないでいるヘクターと出会い、一緒に行動するようになります。
ミゲルが途中、そんなヘクターともめて一人でデラクルスの元へ行こうとするときも、ダンテはすごい勢いでミゲルを止めました。
結局、ミゲルに「君は案内人なんかじゃなくてただの犬だ」と追い払われて、ダンテは悲しそうにしばらくどこかへ行ってしまいます。
でも最終的には、デラクルスによって穴の中に囚われていたミゲルとヘクターを救ったのはダンテでした。
ぺピータという名前の大きなアレブリヘに乗った、ミゲルのひいひいおばあさんであるイメルダを連れてきてくれたのです。
どうやらダンテは最初から、ヘクターがミゲルのひいひいおじいさんだということを知っていたようですね。
そして、アレブリヘに乗っている間に、ダンテ自体もアレブリヘとなります。
ここで、ついにダンテはミゲルの本物の「魂の案内人」となったわけです。
そもそも、ダンテの正体はもともと死者の案内人的な存在で、生きてもいなければ、死んでもいない存在だったのでしょう。
さらに、デラクルスに落とされたミゲルを救ったのも、アレブリヘのダンテとぺピータでした。
ダンテはミゲルの命を救い、ミゲルの先祖と結びつけるという超大役を背負っているということになります。
そして、最後のシーンではダンテは死者の国と生者の国を行き来できる身となっている姿が描かれています。
ダンテはアステカ文明の伝説にも出てくる犬
ダンテの犬の種類は、メキシコ原産の「メキシカン・ヘアレス・ドッグ(正式名はショロイッツクゥイントリ)」というもので、通称「ショロ犬」という名前で知られています。
ショロ犬は、歯をなくしやすいために舌が口から出てしまうことが多いようで、ダンテもいつも舌を垂らしています。
そんなショロ犬は、メキシコの土着文化である「アステカ文明」の伝説に登場し、死後の世界で死者を導く役割を果たすと言われています。
ダンテはとても古くから伝わる伝説の犬をモデルにして作られたわけです。
劇中でも、「毛のないショロ犬は迷える魂を導く犬」だという説明があります。
そして、映画の途中からダンテは立派なアレブリヘに姿を変え、まさに正式にミゲルの魂の案内人となるのです。
ダンテがアレブリヘになれたのは、もともとアステカの伝説でも大役を果たすショロ犬だからこそであったのかもしれないですね。
「ダンテ」といえばダンテ・アリギエーリ
ダンテという名前を聞けば、きっとイタリアの詩人、ダンテ・アリギエーリを思い出す人も多いでしょう。
『神曲』を書いた、あのダンテです。
ただ名前がかぶっているだけだろうと思うかもしれないが、これが意外と関連性が見られておもしろい!
ダンテ・アリギエーリの代表作『神曲』では、ダンテ自身が死後の世界である地獄、煉獄、そして天国の3つの世界を旅していきます。
それぞれの世界で、主人公ダンテは「魂の案内人」によって導かれていきます。
この作品でも、死者の国をガイドする「案内人」というキーワードがあります。
『リメンバー・ミー』では、『神曲』とは逆で、ダンテという名前の犬が、死者の国で迷ってしまうミゲルを導いています。
役割こそ違えど、死者の国の案内人という設定がどちらの作品でも使われているわけです。
アステカ文明だけでなく、ヨーロッパの古典作品との関連性まで見られる『リメンバー・ミー』。
考えてみると、なかなか奥が深い作品のようですね。
まとめ
映画『リメンバー・ミー』に登場する犬のダンテは、主人公ミゲルの「魂の案内人」の役目を果たす、とても重要なキャラクターです。
それだけでなく、メキシコを代表するショロ犬で、アステカ文明の伝説でも案内人の役割を果たしています。
ダンテという名前も、イタリアの詩人ダンテに何気に関連が見られて、『リメンバー・ミー』のダンテというキャラクターが持つ意味は思ったよりもスケールの大きいものなんじゃないかと思えてきますね。
死者の案内人と言うのにふさわしい、不思議な犬です。
次に『リメンバー・ミー』を観るときには、ぜひそんな興味深い犬、ダンテにも注目してみてください。
- 映画『リメンバー・ミー』(2017)リー・アンクリッチ監督