今回は、アンデルセン童話『雪の女王』について見ていきたいと思います。
ディズニー映画『アナと雪の女王』でも話題になった、この童話。
実は、雪の女王が主人公ではなく、カイとゲルダという2人の少年少女が主人公です。
そして、雪の女王は怖い敵……のはずなんですが、怖い童話なのかと思いきや、実際はゲルダがカイを救う感動的な冒険物語だったりします。
いったいどんな童話なのか、『雪の女王』について詳しく探ってみましょう!
雪の女王の大まかなあらすじ
『雪の女王』は大きく7つの物語に分かれています。
物語の流れとしては、次のように進んでいきます。
お話しその1 鏡とそのかけらのこと
あるところに悪魔がいて、鏡を一つ作った。
その鏡は、美しいものは見えず、醜いものばかり見えるもの。
いい人間でも、悪い部分や、醜い部分が映ってしまうものだった。
悪魔がその鏡で世界中の人間を映し出し、ついに神様のところへ持っていこうとしていたとき、あやまって鏡を落としてしまう。
その鏡は粉々に割れて、とてつもなく細かくなって、人間の身体の中に入り込んでしまう。
鏡のカケラが入った人間は、物事の悪い部分ばかりを見るようになるのだった。
お話しその2 男の子と女の子
ある大きな町に、貧しい2人の子どもが住んでいた。
カイという男の子と、ゲルダという女の子だった。
この2人は兄妹ではなかったが、とても仲良しだった。
家が隣通しで、よく2人で遊んでいた。
あるとき、カイの心臓の中に、悪魔が落とした鏡のカケラが入ってしまう。
カイはぜんぜん気づかないくらい小さなものだったが、それからカイは悪いものや嫌なものばかりが見えるようになり、人が変わってしまった。
カイの心臓は、このままだと氷のかたまりのようになってしまう。
そんなカイのもとへ、雪の女王が現れる。
カイがソリに乗って遊んでいるところへ、雪の女王がもっと大きなソリに乗ってやってくるのだ。
そして、カイのソリをつなぐと、まるで一緒に遊ぶかのごとくそのままカイを連れ去ってしまう。
カイはすっかり雪の女王に取り込まれ、そのまま町から消えてしまうのだった。
お話しその3 魔法を使うおばあさんの花園
ゲルダは、いなくなってしまったカイを探すことにした。
まずやってきたのは川。
その川に流されると、そこでおばあさんのいる家にたどり着く。
おばあさんは悪い人ではなかったが、魔法を使ってゲルダを自分の家の花園に置いておくことにした。
魔法のせいですっかりカイのことを忘れていたゲルダだったが、バラの花を見て思い出し、花園に咲いている花たちにカイのことを聞いてまわる。
何も情報が得られなかったゲルダは、道草を食ってしまったと言って、花園を出ていく。
季節は夏から秋に移り変わっていた。
お話しその4 王子と王女
ゲルダが休んでいると、カラスに声をかけられる。
カラスにカイのことをたずねると、お城で王女様と結婚した男なんじゃないかと言う。
カラスの話を聞くうち、その新しい王子がカイだと確信したゲルダは、お城へ連れて行ってもらう。
とうとうカイに出会えたと思ったゲルダだったが、その王子は首筋が似ているだけの、別人だった。
王女様と王子様は、ゲルダを城で休ませ、翌日に馬車を与えてくれた。
ゲルダはまた、カイを探す旅に出発するのだった。
お話しその5 山賊の小娘
暗い森の中を馬車が走っていると、そこで山賊に襲われてしまう。
従者たちは殺されてしまうが、ゲルダは無事だった。
山賊の中にいたわがままな娘が、ゲルダと遊びたがったからである。
ゲルダはその山賊の娘にも、カイを探している話をする。
ぶっきらぼうに聞いていた山賊の娘だったが、ゲルダにはやさしかった。
その夜、娘の寝床で寝かせてもらっていたゲルダは、ハトから「カイは雪の女王のところにいる」という話を聞く。
雪の女王はラップランドにいるらしく、山賊のもとにいたトナカイが詳しいことを知っていた。
そこで、山賊の娘はゲルダをトナカイに乗せてやり、ラップランドまで連れていくよう取り計らってくれた。
ゲルダはトナカイに乗り、防寒をして、雪の女王のもとへと向かうのだった。
お話しその6 ラップ人とフィン人の女
とある家の前までやってきたゲルダは、そこに住んでいたラップ人の女に話を聞いた。
雪の女王は今はフィンマルケンというところにいるらしく、そこまで行かなくてはならないとのことだった。
美しいオーロラが見えるフィンマルケンまでやってきたゲルダは、そこでフィン人の女に会う。
トナカイはフィン人の女に、強い力をゲルダに与えてくれるよう頼むが、ゲルダの中にはすでに強い心の力があるという。
雪の女王の庭までの道を聞き、トナカイはゲルダをそこまで送り届ける。
ゲルダは一人、雪の地面を駆け出すのだった。
お話しその7 雪の女王のお城であったことと、その後のお話
雪の女王の城では、カイがすっかり取り込まれて、居ついてしまっていた。
そんな中、雪の女王が別の国に出かけたときに、ゲルダが城の中へやってきた。
冷たくなったカイに熱い涙をたらすと、カイの心臓に涙が溶け込み、氷のかたまりを溶かして、鏡のカケラを食いつくした。
カイはゲルダのことを思い出し、2人で喜び合って、泣いた。
2人はこれまで来た道を戻り、これまで会った人たちに別れを告げながら、町へと戻った。
町へ戻ってきたときには、いつの間にか時がたっていて、2人は大人になっていた。
季節は夏で、大人になった2人は、手を握り合って腰かけに座った。
雪の女王は怖い存在か?
と、こうやってあらすじを見てみて気づくことは、「雪の女王」があまり登場しないということ。
そう、この童話、雪の女王というタイトルではあるものの、実際に雪の女王が登場する場面は少ないのです。
怖いセリフを吐くわけでもないし、怖い魔法を使うわけでもありません。
雪の女王そのものは怖い存在ではあるが、あまりその怖さが見られる描写はないのです。
というか、直接的に怖いというよりは、「じわじわと怖い」といった感じです。
雪の女王は、こんな風に描写されています。
雪の女王は、それは美しい人でした。これ以上、賢い、やさしい顔は、考えられませんでした。
そう、雪の女王は美しいのです。
イメージは、「雪女」のような感じでしょうか。
雪の女王がカイのもとへ来るのは2回ほどありますが、そのどちらも「やさしく」声をかけています。
そして、連れさる瞬間には額にキスをし、カイの心をもてあそびます。
雪の女王はとても冷たい人(体温が)で、キスをするときにも、その冷たさがカイに伝わるほど。
カイの心を凍らせてしまい、国へと連れ去っていきます。
実際、その目的はよくわかっていませんが、連れ去ってしまうくらいだから、怖いことには変わりはないですね。
表立って怖いというより、おとなしく、じわじわと来る怖さを持っているわけです。
雪の女王の最後はあっけない
「それで、雪の女王は最後どうなったのか?」と思われたでしょうか?
ふつう、こういった物語だったら、ゲルダが最後、雪の女王をやっつけるか何かして、カイを取り戻しそうな気がします。
もしくは、追ってくる雪の女王から必死に逃れるような、ハリウッド的ストーリー展開も期待してしまうかもしれません。
ところが、この童話のクライマックスは、雪の女王と戦うわけでも、雪の女王から逃げるわけでもありません。
ものすごくあっけなく、雪の女王がいない間に、カイを連れ出して「めでたしめでたし」なのです。
しかも、別に雪の女王がいないスキを狙ったわけではなく、たまたまお出かけしていただけ。
その後、いなくなったカイに雪の女王が気づいたのかも不明。
とにかく、『雪の女王』というタイトルがついていながら、物語の終盤では存在感が薄いのです。
てっきり雪の女王が恐ろしく変貌したり、怖い魔法を使ってきたり、カイをやっつけようとしたりするのかと思いきや、何のごたごたもなくスムーズに事が進んで終わります。
ただ、「雪の女王の庭にいる」との描写だけに登場し、あとは放置プレイ。
ゲルダなんて、雪の女王と出くわしもしません。その姿を目で見ることなく、城を出てさようならです。
そんなわけで、冒頭ではちょっと不気味な恐ろしさを醸し出した雪の女王でしたが、最後はほとんど出番がなく終わります。
雪の女王とのハラハラを期待していると、ちょっと肩透かしをくらうかもしれません。
雪の女王はカイとゲルダの物語
『雪の女王』はゲルダが主役といっても過言ではありません。
連れ去られたカイを探しに、ひたすらゲルダが旅をつづけていくストーリー展開です。
ゲルダはひたむきに、カイを探し続けます。その姿に、心打たれる人も少なくはないでしょう。
たくさんの困難を乗り越えて、最終的に雪の女王のところまでたどり着くわけです。
そして、見事にカイを救い出します。
そう、これは『雪の女王』という名の、カイとゲルダの物語。
少女の勇気が少年を救う童話なのです。
カイとゲルダの2人の再会場面は、童話というより、長編小説を読んできたような感動を呼びます。
ゲルダの勇気やカイを想う気持ちに、胸を打たれますね。
そういう意味では、雪の女王というキャラクターは、カイとゲルダの描写で感動させる材料として成り立っているのかもしれません(失礼な言い方ですが……)。
雪の女王の怖さよりも、カイとゲルダの温かみが目立つ童話になっています。
まとめ
ということで今回は、アンデルセン童話『雪の女王』について、あらすじを見つつ、ストーリーを探ってみました。
雪の女王は怖そうなキャラクターですが、実はそこまで怖くはなかったですね。
いえ、確かに怖いは怖いんですが、童話の中ではその存在感が少し薄くなっています。
なので、『雪の女王』は、怖い話というより、感動的な話といえそうです。
怖さを求めるなら『雪の女王』は微妙になってしまうかもしれませんが、話としてはひとつの映画を見ているようなおもしろさと感動があります。
気になったらぜひ読んでみてくださいね!