兄が弟を排除する、歌う骨というグリム童話

今回はなにかと兄弟が登場するグリム童話の中から、欲にかられた兄貴が自分の弟をあやめてしまう、怖い童話をご紹介しよう。

その物語とは、KHM028『歌う骨』である。

 

グリム童話の中には仲のいい兄弟はたくさん出てくるが、今回の話は一味ちがう。

兄弟げんかどころか、兄が弟に手をかけてしまうのである。

旧約聖書に登場するアベルとカインのような状況だ。

 

素直な心を持った弟が、なぜ兄にやられなければならなかったのか。

そして、それを逆転する「歌う骨」とは何なのか。

 

身内に手をかけるほどに膨れ上がった人間の妬みを、じわじわと描いたこの童話を、じっくり紹介していこう。

 

兄弟がイノシシ狩りにチャレンジ

この物語には2人の兄弟が登場する。

2人は貧しい男の息子たちだ。

 

しかし、この兄弟、性格は全く対照的。

 

兄の方は、悪知恵がはたらき、ぬけめがない。

弟の方は、無邪気で少しのんびり屋。

 

このころ、この2人が暮らす国は、イノシシによる害に悩まされていた。

しかも、このイノシシ、そうとうな暴れもの。

大きくて強い。

畑を荒らし、家畜を攻撃し、きばで人間のからだを引き裂く。

もののけ姫にでてくる、おっことぬし様みたいな感じかな。

 

実際、イノシシは突進力が強く人間を襲うこともある。

大人のイノシシは体重70kg以上にもなり、時速45kmで走れる。

人間の大人を跳ね飛ばしてけがをさせるほどのパワーだ。

この童話の中のイノシシは、きばで人間のからだをひき裂けるのだから、かなり大きかったのだろう。

 

王様が「イノシシを倒した者には、ほうびをたくさんやる」と言っても、みんな怖がってやりたがらない。

王様はとうとう、「イノシシをとらえるか、しとめた者には、ひとり娘を妻にしてもよい」というおふれをだした。

 

ここで、例の兄弟が名乗りをあげる。

 

お兄ちゃんのほうは、「自分ならできる」とうぬぼれて、イノシシ退治に名乗り出た。

一方、弟のほうは、「みんなのために」という善意から、退治を申し出た。

 

王様は2人に、確実にけだものを見つけるためにそれぞれ反対側から森に入るように、と言った。

そこで、兄は西から、弟は東から森に入る。

 

弟がしばらく行くと、こびとに出会った。

こびとは、黒いやりを手に持っていて、弟にこう言った。

「このやりをおまえにあげよう。おまえは心にけがれがなくて、誠実だから。これをもっていれば、イノシシにむかっていってもだいじょうぶだ。イノシシは、おまえになにも害を加えはしない」

 

優しいこびとの登場だ。

まるでRPGゲームの中で、いかにも重要そうな人に話しかけたらアイテムがもらえたような感覚だろうか。

とにかく、誠実に生きていれば、いいことは必ずあるものだ。

 

弟がお礼を言ってしばらくいくと、イノシシが自分に向かって突進してくる。

弟がやりを構えても、イノシシはそのまま突進してきた。

そう、やりに向かって突進してきた。

武器を見せつけられても逃げることのない、勇敢なイノシシだ。

もちろん、そのままイノシシに突き刺さり、心臓をまっぷたつにした。

 

こうして、「弟」は恐ろしいけものを退治することに成功した。

これぞまさに猪突猛進。

イノシシらしい最期だ。

 

兄の恐ろしい悪事

イノシシを倒した弟は、この獣を肩にかついで、王様の元へ向かった。

 

森の反対側に来ると、森の入口に1軒の家があって、中では大勢の人が賑やかに飲んだりおどったりしている。

「兄」はこの家の中にいた。

彼はイノシシ退治の前に1杯やって景気をつけよう、としていたのだ。

 

弟が獲物を背負って森から出てくるのを見ると、兄の心の中に悪い気持ちが湧きあがる。

いやな予感である…。

 

兄は1杯のんでいけ、と弟を誘う。

素直な弟は、いわれるままに家の中へ。

兄に向って無邪気に、こびとからもらったやりでイノシシを倒した話をする。

そして、日が暮れると、2人は連れ立って、家を出かけた。

 

ところが、兄にはおそろしい悪だくみがあった。

弟を排除する計画だ。

 

橋まで来ると、兄は弟を先に行かせた。

そして、橋の真ん中で弟に殴りかかった。

弟は川へ真っ逆さま。

命を落としてしまうのである。

 

兄はそのまま弟を橋の下に埋め、イノシシを王様の元へ持っていった。

そして、自分が倒したと嘘をついて、王女様と結婚してしまう。

なんとも胸クソな話だ。

 

自分の弟を平気で手にかけるなんて。

兄の心に芽生えた、ねたみや嫉妬が怖ろしい。

 

イノシシ狩りに出かけたまま帰ってこない弟についてたずねられると、兄は「イノシシにからだを引き裂かれたのだろう」とこたえる。

人間のからだを八つ裂きにするけだものよりも、肉親を橋から突き落とす人間の心の方がよっぽどけだもののようだ。

 

歌う骨でスカっと逆転

しかし、弟だってこのまま黙って永眠しているわけではない。

 

事件から何年もたったある日のこと。

 

1人のヒツジ飼いが、あの橋を渡った。

すると、砂の中に小さな白い骨を発見する。

ヒツジ飼いは、その骨を拾って、けずって、角笛の吹き口をつくった。

ちょっと吹いてみると、小さい骨がひとりでにこう歌い始めた。

 

「ああ、ヒツジ飼いさん
あなたが吹いているのは、わたしの骨だよ
ぼくの兄さんが、ぼくをころし、
橋の下に、うめたんだ
イノシシを、横どりし、
王女様をお嫁にもらうために」

 

ヒツジ飼いはこの不思議な歌を聞いて、王様の目の前でこの歌を披露することにする。

角笛の歌を聞くと、王様には、なにが起こったのかがよくわかった。

 

王様の命令で橋の下の砂が掘り起こされると、弟の骨が出てきた。

証拠発見である。

 

兄は、罰として袋の中に入れられ、生きたまま水に沈められる。

皮肉にも、兄は弟と同じように溺れながらこの世を去っていくのだ。

何気にこの刑も、なかなか残酷な気もするが。

 

一方、弟の骨は、教会の墓地のお墓に入れられた。

これで、やっと弟の骨も歌うことなく、静かに休むことが出来るだろう。

最後はスカっと逆転するお話だ。

 

ちなみに、歌う骨のモチーフは、日本は鹿児島県、新潟県に伝わる『歌い骸骨』という民話にも見られる。

興味があればぜひググってみてほしい。

 

まとめ

いかがだっただろうか。

童話の世界でも、現実でも、仲が良い兄弟ばかりが登場するわけではない。

近くにいるからこそ、許せないほどうらやましくなることもあるのだろう。

かの有名なイギリスの兄弟ロックバンドのように、兄も弟も才能に溢れているとなおさら大変なのだろう。

兄弟げんかは尽きないものである。

 

それにしても、命を奪ってしまうほどの嫉妬心はおそろしい。

 

心がきれいなおかげで、弟はこびとからやりをもらうことができた。

そのおかげで、イノシシという獰猛な獣を退治できた。

 

だが弟には、兄の心に住む魔物を見つけることはできなった。

人間の心の中のけものを退治するためには、素直な心以外に必要なものがあるのかもしれない。

 

(セリフ引用元:『グリム童話全集 子どもと家庭のむかし話』 訳 橋本 孝・天沼春樹)

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